22 / 27
爽良の奮闘④
「ほら、キツくないか?」
「ああ、大丈夫だ。……なあ、李樹」
「何だよ?」
「かわいい、か?」
「……ハ?」
「これ、かわいい、か?」
ゴムを指さしながら、振り返り問う。
ゴクリと息を呑む音が聞こえたかと思うと、李樹はオレの腹に手を回し何かを堪えるように力を込め、次に片手でオレの頭を支えた。
「可愛いから、キスさせろ」
「もちろんだ」
食い気味に頷く。
李樹からのキスなんていつでも大歓迎だ。許可なんて取らなくても、周りに人さえいなければぶちゅっとやってくれて構わない。いや、やって欲しい。
さっきよりも理性のタガが外れたような李樹からのキスに、やはりこれは正解だったのだとほくそ笑む。
女が恋愛対象の李樹と付き合うためには、容姿だけでも女に近づけなければならない。
最初のデートで女装を提案されたのが何よりの証拠、もっと女の子らしくならなければ!
と心の中では燃えながら、オレは李樹とのキスにまた息を荒げた。
「乙夜、女の子っぽいって何だと思う?」
「……っ……いけない、危うく噴き出すところだった。爽良の発言って突拍子の無い事が多いよね」
「そうか?」
「そうだよ。今度は一体何を考えてそんな考えに至ったの?」
「いや、ただ単に李樹はやっぱり、女っぽい方が今までとの差も少ないし、戸惑いもあんまりないと思って……」
「で、女に近づけたいって?」
「ああ。オレは女にはなれないけど、容姿だけでも近づけるにはどうしたら良いかな~って思って」
困った時は乙夜に相談、それが最近のオレのスタンスだ。
李樹の事以外なら李樹に相談するんだけど、最近の俺の悩みは専ら李樹の事なのだ。よってこうして、乙夜に相談する事が多い。
元々李樹の事が好きだと相談していたし、男同士である事に偏見もない。
なので相談しやすいのだ。
「……またまた変な思考に陥っちゃってまぁ~」
「ん? 今何て言った?」
「いや? えっと、女だっけ? ん~……爽良だったら、李樹の服の裾でも掴んで『ん』って目を閉じるだけでも相当効果あると思うけど?」
「え、そ、それって……キス、強請るって、こと……か?」
「そうそう。あざと可愛くて良いと思うな~」
「あ、あざと……?」
「可愛い可愛い。あとは……少女漫画でも読んどけば?」
「少女漫画……」
「うん。恋愛初心者の参考書、それの女の子の真似をしてみなよ。きっと、いや絶対、李樹はクラリと落ちるね。そしてそのまま誤解を解いて欲しいのが、僕の願いかな!」
「そうか、少女漫画、少女漫画か……」
「うん。大事な所は聞いてない、だと思ったよ!」
何だか明るい乙夜の肩に手を乗せ、「ありがとう、やってみる!」と意気込んだ。
少女漫画なら当てがある、早速今日、借りに行こう!
よしっ、とオレは、拳を握り気合を入れた。
ともだちにシェアしよう!