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第3話
「じゃあ、また」
逃げるようにその場から立ち去ろうとしたら、長身のサラリーマン風の青年とすれ違った。
「知り合いか?」
「俺がずっと片想いしていた子。ようやく本人に会えた」
「それは良かったな」
青年とガチで目が合った。
「外見はヤンキーで、チャラチャラして遊んでいるように見えるが面倒みが良くて、仲間を大切にするから信用も厚い。同い年も年下も年上も関係なく誰からも兄貴と呼ばれ慕われている。回りくどいことはなしだ。橘、遥琉兄貴の嫁になれ」
「嫁?男なのに?」
何を言われたか理解するまで時間がかかった。
その日を境に彼のストーカー行為がはじまった。教室、図書室、調理自習室、家庭科準備室、校庭、体育館、どこにいても「橘いるか?」「ツラ貸せや」そう言って顔を見せるようになった。
「どこまで付いてくる気ですか?」
「暗い夜道にいたいけな男子をひとりで帰すわけにはいかないだろう」
「女でもあるまいし、ひとりで帰れます」
プイッとそっぽを向いて、青信号に変わった横断歩道を渡ろうとしたとき、ププーーッとクラクションを思いっきり鳴らされた。足が縫い止めたられたように動けずにいたら、ぐいっと肩を掴まれ引き戻された。
「だから、危ないって言っただろう」
「ごめんなさい。卯月さんありがとう」
「同級生なんだ。ため口でいい。卯月さんって呼ばれると背中がむず痒くなるから、遥琉でいい。呼び捨てでいい」
結局アパートの前まで送ってもらった。
「ちさとだっけ?妹」
「妹はいません」
「男でも、心は女の子なんだ。妹には違いないはずだ」
遥琉はニ歳年下の弟の千里 のこと、母親のこともすべて知っていた。
「遥琉、勝手に……」
僕が止める間もなく遥琉は家のなかにずかずかと入り込んできた。
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