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第4話
千里とは父親が違う。
経済的理由から育てることが出来ないと母は千里を養護施設に預けた。でも十歳の時、男性職員から性的悪戯を受けて施設を脱走し、母親がほとんど寄り付かない僕のところに助けを求めて転がり込んできた。転校した小学校でからかわれそれ以来不登校になりそれ以来ずっと家のなかに引きこもっている。
「千里、別に出てこなくていい。今日からこれを着ろ。気分がぱぁ~~と明るくなるぞ。中学校に行きたくなきゃあ行く必要はない。でも、高校くらいは行け。通信制のいい学校がある。パンフレット一緒に置いておくぞ」
リュックサックから可愛らしくラッピングされた大きな袋と分厚い茶封筒を襖戸の前に置くと、
「じゃあな」
手を振って鼻唄を口ずさみながら上機嫌で帰っていった。
十分くらい過ぎてから襖戸がすっと開いた。
「さっきのひと、お兄ちゃんの友だち?」
「ビックリしたよね。いきなり押し掛けてくるんだもの」
グレーのスエットを着た千里が部屋から這い出てくると袋に手を伸ばした。
なかを見ると女性用のTシャツ、パーカー、ワンピース、可愛らしいくまの柄のパジャマがこれでもかとぎゅうぎゅうに詰め込んであった。
【半年遅れて悪いな。クリスマスプレゼントだ。誕プレ何がほしいか分からねぇから兄ちゃんにリクエストしてくれ】
彼らしい言葉。真面目で実直で優しい人柄を物語っていた。
「着替えてきていい?」
「もちろん」
千里の表情が一瞬で明るくなった。
「お兄ちゃんどう?」
花柄のワンピースに着替えた千里の目はキラキラと光輝いていた。
「可愛いよ」
「お兄ちゃんの友だち……えっと名前は……」
「遥琉だよ」
「遥琉さんにありがとうってお礼言わなきゃ」
「手紙を書いたら?」
「そうする」
こんなにも楽しそうにはしゃぐ千里の顔を見るのが久し振りで。僕まで嬉しくなった。
その後遥琉がアパートに足繁く通うようになった。辺りが暗くなるのを待って女の子に変身した千里を外に連れ出してくれたり、本屋に参考書を買いに連れていったりと甲斐甲斐しく千里の面倒をみてくれた。
だから千里は遥琉を遥琉お兄ちゃんと呼んで慕うようになった。仲のいいふたりを見るたび胸が締め付けられるようで苦しかった。
「お兄ちゃん、アタシ大きくなったら遥琉お兄ちゃんみたいなひとと結婚したいな」
千里の言葉にドキリとした。
「お兄ちゃん、遥琉お兄ちゃんのこと好きなんでしょう」
「そんな訳、ある訳……」
ないとは言い切れなかった。
「だって見てれば分かるもん」
クスクスと千里が悪戯っぽく笑った。
「お兄ちゃん、遥琉お兄ちゃんのことずっーーと見てるでしょう。アタシが遥琉お兄ちゃんって声を掛けただけで、お兄ちゃんに睨まれるんだもの。それに昆さんが……」
「昆さんの話しはいいから」
思い出すのも恥ずかしくて耳を両手で塞いだ。
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