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第9話

真っ先に頭に浮かんだのは遥琉の名前だった。 彼ならきっと千里を助けてくれる。 裸足のまま家を飛び出し公衆電話がある近くのコンビニエンスストアまで無我夢中で走った。 「お、奇遇だな。こんなところで兄貴の嫁さんに会うなんて」 駐車場に着くなり昆さんに声を掛けられた。 「すみません。あなたに構っている暇なんかないんです」 頭を下げ公衆電話に行こうとしたら腕を掴まれた。 「離してください‼」 「俺の話しを聞け」 「さっきも言ったはずです。あなたに構っている暇はないって」 手を振り払おうとしたけどびくともしなかった。 「きみの妹は病院にいる。兄貴が助け出した。怪我はしているが命に別状はない」 にわかには信じられなかったけど、昆さんが嘘をついているようには見えなかった。 「嘘じゃない。本当だ。二日前、兄貴の目の前で年寄りが引ったくりの被害にあった。蒼生らがあとを追い掛け二人組の犯人を取り押さえた。その年寄りというのが偶然にもきみが住むアパートの、しかも隣人だった。遥琉はその年寄りからきみの母親のことを聞いたんだろう。もし隣の部屋で大きな声や音がしたらすぐに連絡を寄越すように頼んだんだよ。だから、すぐに駆け付けることが出来たんだ、兄貴の嫁さん、病院まで送るから乗れ」 昆さんが助手席のドアを開けてくれた。

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