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第10話

「千里!」 病室に駆け込んだ。 「あっ……」 そこにいたのは遥琉じゃなく、遥琉の一歳年下の弟、蒼生(あおい)さんだった。 「兄貴は警察に事情を聞かれている。千里ちゃんは全身打撲と肋骨にヒビが入っているみたいでしばらく入院が必要だって先生が言ってた。橘先輩これを」 蒼生から渡されたのは血がべっとりとついたクシャクシャになった一万円札が入ったポリ袋だった。 「母親が玄関のドアを叩いて開けろと喚き散らした。千里は冷蔵庫の底に隠してあった給料袋から一万円札を一枚だけ抜いて別の場所に隠し、居留守を使ったが、母親の内縁の夫の太田という男が鍵を壊し上がり込んできた。会わないうちにいつの間にか女の子になっていた千里に母親は驚いたみたいだが、男はにやにやと千里を舐め回すように見ていたみたいだ。あとはだいたい予想がつくだろう」 「蒼生さんありがとう」 「礼は兄貴と昆さんに言って。俺は別に何もしていない。廊下にいるから何かあったら呼んで」 蒼生さんが病室から出ていった。 「千里ごめんね」 ベットに静かに横たわる千里に寄り添い、何度も謝った。こんなことになるなら高校に行かないで、母親も誰も知らない、うんと離れた町で就職すれば良かったんだ。どんなに後悔しても時間は巻き戻らない。

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