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第15話
「あの遥琉」
「ん?」
てっきり家に送ってもらえるかと思ったけど、連れていかれたのは彼が住んでるアパートだった。
「きみをあのアパートに帰す訳にはいかない。もう二度と危ない目に遭わせたくない」
「教科書とか参考書とか服とか持ってこないと」
「昆がアパートから必要な荷物はすべて移動してくれているはずだ。アパートを借りているのはきみの母親だ。あとは自分たちでどうにかするだろう」
遥琉が玄関のドアを開けてくれた。
「あ、そうだ。肝心なことを聞くのを忘れていた。なぁ、橘、きみさえ良かったらだけど、これからは橘じゃなく、名前で呼びたい。駄目か?嫌なら無理強いはしないが」
「え⁉」理解するまで少し時間がかかった。彼が名前で呼んでいるのは、僕が知る限りでは蒼生さんと裕貴さんと千里だけ。他にもいるかも知れないけど。
学校でもクラスメイトや友人はみな名前じゃなくて名字で呼んでいる。
千里みたく僕も名前で呼んでもらえる。それがすごく嬉しかった。
「嫌じゃないよ」
「そうか。それなら良かった」
でも同時に彼が僕の名前をちゃんと覚えてくれているのか不安になった。
「優璃 ってすごく素敵な名前だよな。きみにぴったりな名前だ」
「そうやってすぐからかうんだから」
「からかってないぞ。本心だ。立ち話しもあれだ。なかに入ろう」
「ちょっと待って遥琉」
彼は僕の名前をちゃんと覚えてくれていた。幸せを噛み締めながら彼のあとを追い掛けた。
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