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第16話
幽霊が出るとかで誰も近寄らない二階建てのアパートで新しい暮らしがはじまった。
「ヤミ金の厳しい取り立てに耐えかねて一家心中したとかしないとか、いろんな噂が飛び交ってはいたんだ。物音はするが、幽霊を見た者はまだいない」
「物音はするって、絶対にいるってことだよね」
「まぁ、そうなるかな」
破格の値段で売りに出されていた築三十年のアパートを彼のお父さんで龍一家の組長である上総さんが買い取った。道路を挟んだ目の前に組事務所があるみたいで若い舎弟さんたちがここで寝起きしていると彼が教えてくれた。
「優璃、靴下どこ?」
「優璃、シャツにアイロンをかけたのある?」
彼と僕と蒼生さんのお弁当を作っていたら、寝癖がすごいことになっている彼があくびをしながら台所に入ってきた。
「ちょっと待ってて」
一緒に暮らしはじめて分かったこと。
それは彼が甘えん坊で構ってちゃんで焼きもち妬きということ。
一旦手を止め、
「脱衣場にあるチェストの中だよ」
場所を教えると頭を掻きながら、
「うん、分かった」
ふらふらと戻っていった。でも五分と経過しないうちにすぐまた戻ってきた。その手にはドライヤーとネクタイが握られていた。
「優璃、お願いします」
両方ぽんと手渡された。
いままでどうしていたんだろう?蒼生さんが面倒をみていたのかな?驚くことばかりだ。
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