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第19話
「来週オープンなんだ。散らかってすまない」
すらりと背の高い四十歳前後の男性が笑顔で出迎えてくれた。
「初めまして。茨木です」
「た、橘です。初めまして。あの……そうだ。よ、宜しくお願いします」
がちがちになりながら言葉を続けると、
「緊張しなくてもいい」
クスッと笑われた。
「子を捨てる親がいれば、その子を助けようとする他人もいる。といってもお節介やきでお人好しのただの中年のオッサンだがな。なぁ橘、ここで働いてみないか?」
「え?」
一瞬耳を疑った。
「きみさえ良ければ、いつでも大歓迎だ。なにか飲むか?」
茨木と名乗った男性がカウンター内の厨房にに戻るとコーヒー豆をミルで挽きはじめた。
「俺らみたくヤクザの子どもだからと、後ろ指を指される人生をきみと千里には送ってもらいたくないんだ。ヤクザに関わらずカタギとして生きてほしい。そう思って茨木さんに頼んだ。俺の夢は、いつかカタギになって、保育士か幼稚園教諭になることだ」
「保育士……?幼稚園教諭……?」
茶髪で強面でヤンキーにしか見えない彼の口から出た言葉があまりにも意外すぎてビックリした。
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