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第21話
「千里ごめんな、遅くなっ……」
病室にいたのは昆さんと、知らない男性。
正しくは僕が知らないだけで、僕を知っている男性。
「あの、どちら様ですか?」
「そんなに警戒心をむき出しにしなさんな。俺は刑事だ。きみと千里を保護してくれと、匿名の電話があったんだ。所轄が違うから、色々と手間どってしまってな。弟さんを……」
「弟じゃなくて、妹」
昆さんが男性に小声で声を掛けた。
「妹?」
「さっきも説明したろ」
「あぁ~、すまない。年のせいか物忘れがひどくてな」
「しっかりして下さいよ」
「すまん、すまん」
バツが悪そうに頭を掻く男性。
「もっと早く対応していれば今回のことは防げたんだ。妹さんもこんな目に合わずに済んだ。橘さん、申し訳ありませんでした」
男性が深々と頭を下げた。
「いえ、もう済んだことですし、千里も無事だったのでもういいです。顔をあげて下さい。交番に何度助けを求めても、あの人をただ注意するだけで結局何もしてくれなかった。誰も助けてくれない。妹を守れるのは僕しかいない。警察には頼れない。ずっと……」
今までのことを思い出し、悔しくて腹が立って上唇を噛み締め、拳を震わせると、
「知ってるか優璃、その交番のお巡り、逮捕されたぞ」
「え?」
思いがけないことを言われビックリして彼の顔を見上げた。
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