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第26話
「伊澤さん、なんでもっと早く助けてくれなかったんですか」
「悪い。これには大人の事情というものがあってな」
決まり悪そうに苦笑いを浮かべると頭を掻いた。
「彼を捕まえなくていいんですか?」
「泳がせて様子を見ろと上からの指示だ」
「事件が起きてからでは遅いんですよ。いつまた千里が襲われるか分からないんですよ。これじゃあ安心しておちおち寝ることさえ出来ない」
「遥琉、もういいよ」
僕と千里のために怒ってくれる彼。真剣な眼差しがドキドキするくらい格好よくて。眩しかった。
「立てるか?」
「うん」頷くと、
首にちゃんと掴まれ
「なんで?わ、わ、は、遥琉」
言われた通り太い首に両手を回ししがみつくとふわりと体が宙に浮き、気づいた時には片手で軽々と肩に担がれていた。
「暴れんな」
「だって」
「俺が落とすわけないだろう。腹へった。帰ろう」
彼が歩き出した。でもすぐに立ち止まって、
「伊澤さん、これだけは言っておく。優璃は俺の大事なひとだ。千里も妹みたいなものだ。傷ひとつ付けたらただじゃおかない」
低い声で脅しつけた。ドスのきいた彼の声をを初めて聞いたからドキドキが止まらなくなってしまった。
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