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第30話

「親父はきみを試したんだよ。息子の嫁として相応しいか、器量と度胸をな」 奥からひとりの男性が姿を現した。 「肝が座ってて、息子には勿体ないくらいなかなかいいオンナだと褒めていた」 「根岸」 彼が声を荒げ、自分よりうんと年上の、伊澤さんと同じ年齢の男性を呼び捨てにすると胸ぐらに掴み掛かった。止めようとしたら、 「根岸は遥琉の守役だ。好きにやらせておけ」 茨木さんに止められた。 「もり……やく?」 聞き慣れない言葉に首を傾げていると、 「ようは育ての親だ。上総はあの通り無類の女好きだ。だから遥琉の兄弟はみな母親が違う。遥琉は九年前に母親を亡くし、根岸が手元に引き取り育てた。上総は自分の息子なのに面倒を一切みないで根岸に丸投げしたんだ。どっかの誰かさんみたいにな。遥琉、先に行ってるぞ。早く来いよ」 彼に声を掛けると玄関に向かい歩きはじめた。 「なにも夕ごはんを食べ終わるまで待ってやればいいのに。せっかちな連中だ」 「お疲れ様です」強面の男たちが茨木さんと擦れ違うたび足を一旦止め、一歩後ろに引いて腰を九の字に曲げ頭を下げて挨拶をしていた。 確か三年前にヤクザを止めたって彼が言っていたっけ。それなのに今もこうして尊敬されている茨木さんって僕が知らないだけで本当はすごい人なのかも知れない。

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