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第31話
「お帰り。夕ごはんのおかず温め直すから先に風呂に入ってきたら?」
蒼生さんにタオルを渡された。
「晴れて親父公認の仲になったことだし、堂々と付き合えるね。良かったじゃん」
「あのね、蒼生さん、茨木さんって……」
聞きたいことがやまのようにあった。
「俺じゃなく、兄貴に聞いたら?」
クスクスと笑われてしまった。
お風呂に入り、濡れた髪をタオルで拭きながら部屋の戸を開けると、一瞬固まった。見なかったことにして慌てて戸を閉めた。
「根岸がプレゼントだって置いていった。千里が退院してきたら、俺、隣の部屋に引っ越すよ。新婚さんの邪魔をする訳にはいかないし。橘先輩、夕ごはん冷めるよ」
「蒼生さん、その新婚とか……」
「間違ってはいないはずだよ。橘先輩って、恥ずかしがり屋で本当に可愛いですよね」
蒼生さんににやにやと笑われた。
六畳一間には絶対に不釣り合いの、新品のダブルサイズの布団がど~んと一式敷かれてあった。
「蒼生、優璃をからかうな」
彼が助け船を出してくれた。
「根岸のお節介焼きは昔からだ。なにも、千里と一緒に寝ればいいんだ。押入れより断然広くて寝心地はいいはずだから。俺は今まで通りでいい」
「えぇ~~俺、やだ~~」
蒼生さんが不満を漏らした。
「羽を伸ばせるとでも思ったのか?甘いな」
彼にぴしっと言われ、グーの音も出なかったみたいだった。
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