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第46話
夕闇が迫る海沿いの道路を彼と手を繋ぎ無我夢中で走った。
「お兄ちゃんたちお帰りなさい」
息を切らしながら喫茶店のドアを開けると千里が笑顔で迎えてくれた。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
彼があたりを確認しながらドアをパタンと閉めた。
「もう閉店だ。鍵、閉めていいぞ」
厨房から茨木さんの声が飛んできた。
茨木さんのところが一番安全だ。なんせ茨木さんは伝説の昭和のヤクザだ。名前を聞いただけでみな震え上がって尻尾を巻いて逃げ出す。彼の言葉の意味がよく分からなかったけど、学校に行っている間、千里を茨木さんにお願いすることにした。事情を説明すると、
「おう、任せておけ」
二つ返事で快諾してくれた。
「また黒のセダンに追い掛け回されたのか?暇な連中だな。他にやることがあるだろうに」
「組の金を猫ババしたのは太田だ。何で関係のない優璃や千里が狙われないといけないんだ」
茨木さんが水をふたつ運んできてくれた。
「連中が諦めて引き上げるのを待っていたら明日になっちまうな。蒼生が腹を減らせて待っているんだろう?根岸を呼んだほうが早いんじゃないのか」
「そうします。茨木さん、電話を借ります」
彼がカウンターの隅に置かれた黒電話に手を伸ばした。
太田は母の内縁の夫だ。
龍一家と敵対する手嶌組の関係者で、違法薬物を売りさばいた金を猫ババし、手嶌組に追われているみたいだった。手嶌組にとって僕と千里は母と太田を誘き出すための格好の獲物だ。
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