48 / 55
第50話
「真沙哉のことはあとでちゃんと説明する。優璃、何があってもこの手を絶対に離すなよ。俺も絶対に離さないから」
手をぎゅっと握られ、大きく頷きながらそっと握り返した。
「アツアツだな。千里も彼氏欲しくなったんじゃないか⁉」
「え⁉アタシ?」
茨木さんに唐突に聞かれた千里。なぜか顔を真っ赤にして照れていた。
「なんだ好きな子いるのか?」
「もぅ、やだぁ~」
図星だったみたいでますます頬が赤くなった。
「たく、暇人だな。他にやることないのか」
「あぁいう大人がいるから、まわりの人間が不幸になるんだ」
根岸さんと伊澤さんが肩を並べお店に入ってきた。
「根岸、店内は禁煙だぞ」
「そうだった」
伊澤さんは、根岸さんがくわえていた煙草を引き抜くと、上着の胸ポケットから携帯灰皿を取り出しそのなかに入れた。
「それとネクタイが曲がっている」
「そうか?気のせいだろう」
「気のせいじゃない。ほら、こっち向け」
携帯灰皿をポケットにしまうと、爪先立ちになり、根岸さんのネクタイをほどき、結び直した。
「身なりが綺麗な男ほど出世するっていうだろう。それに女にもモテる。いい人を見つけて悠仁《ゆうじ》のためにも早く再婚しろ」
「伊澤がそばにいて俺や悠仁の世話をしてくれるから、別にいいかな」
「あのな根岸……」
ふたりの会話をポカーンとして聞いていたら、
「ヤクザを取り締まる側であるマル暴のデカが、ヤクザの親子の面倒を甲斐甲斐しくみているんだ。根岸は色恋沙汰に疎いからな。伊澤の気持ちに気付くまであと20年はかかるぞ」
茨木さんが苦笑いを浮かべながら、淹れたてのコーヒーをふたつ準備した。
ともだちにシェアしよう!