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第53話
「伊澤さん、あのひとはどうなりますか?」
「夜の街に沈められて、借金を返すまで客の相手をさせられるだろう。その前に薬物中毒で死ぬかも知れないがな。まぁ、時と場合によっては助けてやってもいいんだな、たまにはお灸を据えないと本人のためにならない。橘、お前を好いてくれる男がすぐ隣にいるんだ。黙って愛されていればいいんだ。余計なことは考えるな。なるようにしかならない」
「伊澤の言う通りだ。ヤクザをやめても茨木さんを兄貴と呼んで慕う連中は多い。前島も伊縫も迂闊に手を出せない」
彼が肩をそっと抱き寄せてくれた。
「いまは無理でもいつかきっと会える日が来る」
「うん、そうだよね」
「信じて待とう」
彼なりに気遣ってくれて。励ましてくれた。でも僕たちが母の顔を見たのはこれが最後だった。
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