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なんて話し掛けようか

 隣の席の棚橋学斗。  高2のクラス替えで初めてその存在を知った。  ーーー『男子校の姫』  そう呼ばれるこの棚橋が、俺をチラチラと見てくる。  最初は少し鬱陶しいと感じたそれも、今は何だか楽しくなった。  席替えから一週間。未だ会話はないけど、俺はもう変な対抗意識は捨て去って、この頃はなんて言って話し掛けようかと、そればっかり考えている。  この一週間、俺は棚橋を観察した。何とか会話の糸口を探そうと、結構必死になってた気がする。だけど中々いいネタが見つからない。唯一の共通点は、去年同じクラスだった図体のデカい元クラスメートの山本哲郎。どうやら奴はこの棚橋と仲がいいらしい。放課後はうちのクラスまで毎回迎えにやって来る。同中なんだろう。一緒に帰っていく姿を4日は見た。番犬かよ、と言いたくなる。残り1日は大慌てで教室を駆け出して行ったから、山本が一緒だったのかは知らない。よっぽど急ぎの用でもあったのか、それとも便所でも我慢してたのかもしれないな。姫でも出るモノはあるようだ。当たり前か。    で、週明けの今日。  3時間目のこの時間。地理の教師が病欠になり、自習タイムに充てられた。これはチャンスかもしれない。  机に突っ伏しタイミングを図っている。  少し右側に顔を向けてワザと寝た振りしていると、あのチラチラとした視線を投げてくる。前髪の隙間からこっそりと、薄目で観察して様子を伺う。  凝視しないようにしてるんだろうな。横目でチラッと見ては慌てて机の上のプリントに向き合う。暫くするとまた横目でチラッ。サッと俯く。またチラッ。そんですぐにサッ。面白いなぁ。  何度か“チラッ”と“サッ”を繰り返して、俺が寝ている事を確認したんだろう。急に落ち着かなそうにキョロキョロし始め、何かを決心したかのように肩で大きく息をした。  何が始まるのかと思っていたら、腕枕を作りそこに顔を埋めた。なんだ、居眠りするつもりだったのか。タイミング、逃したなぁ…残念。  そう思って本格的に寝ようとしていたら、視界の先で棚橋がもぞりと動いた。それから腕に埋めた顔を、こそっとこちら側へと傾けた。  お? 俺と同じ事してる。そんなにオレの顔が見たかったのか。    あぁ…もおぉ…、カワッ!   これ絶対そーだろ。こいつ、俺の事好きじゃん。なんだよもおっ、可愛い奴め。  そう思ったら我慢出来なかった。  パチっと目を開けて同じ体勢の棚橋と目を合わす。   あっは。驚いてフリーズした。   デカい目が零れ落ちそうなくらい見開いた。 「ねぇ…。 俺の事好きなの?」 「っ!?」    初めて声をかけるのに、さすがにこれは無いかな? でももう口から出ちまったんだからしょうがない。しかも予想以上にツボる反応が返ってきた。  あ、やべっ 参ったな。 …こいつ、くっそ可愛いぞ。  なんつぅ顔してんだよ。真っ赤じゃん。  横向きにフリーズしてる棚橋は、そのままの体勢でみるみる顔を赤く染めた。   「棚橋って、ゲイとかゆーやつ?」 「ちがうっ」  続く質問にガバっと起き上がった棚橋は、赤くなった顔を俯いて隠してしまった。  おっと…。これは愚問てやつか。ホントにそうでも『はい、そーです』なんて言わないよな。まぁ、あながち間違いじゃないだろうけど。本人に自覚がないだけって事、よくあるらしいし。   「なぁんだ。 違うのか」  ま、それはどっちでもいいけど。俺としてはもうちょっと、さっきの赤い顔を見せて欲しいんだよね。  うー…ん。どうしたらまた見られるかな?  思わず振り向いちゃうくらいのドッキリ質問て、何だろうな。   やっぱりアレ…、か? 「あ! …でも好きだよね? 俺の事」  ぷはっ、なに、その口パク!  声が出ないほど図星指された感じ?  うー…わ。 ホント、ツボる。 「はい あったりー」  ちょっと面白いなぁ。暫くは棚橋からかって遊べそう。

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