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初めての会話がこれ!?〜Side学斗

「ねー 俺のこと好きなの?」  隣の席から葛西宏樹が、上半身をバンザイするみたいに机に乗せて、顔だけこっちに向けた格好でとんでもない事を言ってきた。  同じクラスになって1か月とちょっと。席替えしてから1週間。毎日毎日左側が気になって気になって仕方なかった。  ホントは斜め後ろの席がよかった。そしたら思う存分、遠慮しないで葛西の姿を見られたのに。  このカッコいい同級生をずっと見てられる特等席。それは黒板に向かって自然と顔が向く斜め後ろ。そこを狙ってクジを引いたんだ。…それなのに。神様は意地悪だ。  最初の席は地獄だった。葛西の姿を見られないどころか、逆に葛西からジロジロと見られ放題の斜め前の席だった。毎日毎時間、背中が焼けるように熱くって、見られてるのかなって思うとついつい顔が赤くなってしまう。  俺が見たいのに。見られたくないのに。そんな1か月だった。  時々コッソリ盗み見ようと頑張ったけど、うっかりするとパチっと目が合っちゃって困った。だって葛西はカッコいい。カッコいい葛西と目が合うと、顔が爆発して真っ赤になる。きっと挙動不審の変なヤツって思われちゃう。凄く我慢するんだけど、でも、どうしても、俺は葛西が見たいんだ。  そしてようやくの席替えに期待した。どうか斜め後ろの席にしてくださいって、神様にお願いした。  まぁ…、結果はこうだったけど。神様、頑張りすぎだ。そりゃ隣の席はオイシイとは思う。でもここじゃ、思う存分眺めるってわけにもいかない。だって隣ってことは、そっちを向かないといけない。用もないのに隣を向くのはかなり勇気のいる行動だ。俺にはますますハードルが上がっただけだ。 「棚橋って ゲイとかゆーやつ?」  ぬのわっ!  ななな…っ!? 「ちがうっ!」  ひどい誤解だっ!俺はそんなんじゃないぞっ!ただカッコいい葛西がカッコいいって思ってるだけだっ!  つか、どーでもいーけど初めてする会話がこれとか!さいあくだ…っ!  そう…。この1か月とちょっと。せっかく同じクラスになれたのに、まだ話した事もなかった。だって葛西がカッコよすぎるから…。  まともに顔も見られないくらいカッコよくって、緊張ばっかりしてきっと上手く喋れない。ホントは話もしてみたい…。どんなきっかけがあれば話せるかな…、って、凄く考えてた。共通の趣味とか、好きな食べ物とか、よく観るテレビの話とか、何でもいいから話題になりそうなネタがないかと探してた。  だけど葛西は、あんまりクラスの人とは話さない。時々聞こえるのは『次、何だっけ』と授業のカリキュラムの確認とか『なぁ、後でノート見せて』って誰かに取り損ねたノートを借りる言葉とかそんなのばっか。ノートの時は、俺に頼んでくれないかなぁ…って思ったけど、話した事もないクラスメートに頼るような人じゃないから仕方がない。  だから…というわけじゃないけど、俺は俺なりに葛西との初会話は、凄く貴重な体験になると思ってた。思い返してムフフ…ってなるくらい、感激的なものになるはずだった。  それなのに………  なんだっ、これはっ!!  “明日は晴れますか”みたいに、どうでも良さそうにする質問じゃないぞっ!   「なーんだ 違うのかぁ」  ふぅん そっかぁ…と、折り曲げた腕を枕にして、向けてた顔をその中に埋めた。  葛西の視線が外れた事にホッとして小さく息を吐く。また顔が熱い。どうして俺の顔はすぐに赤くなっちゃうんだろう。  小学生の頃そのせいで散々意地悪されたから、俺は自分の顔がコンプレックスだ。  『キモチワルイ』って、たくさん言われた。『女の子みたい』ってからかわれて笑われた。『ムカつく』って小突かれたり突き飛ばされたりもした。  俺も葛西みたいにカッコいい顔ならよかったなぁ…。 「あ」  と、また小さく呟く声がする。    びくんと肩が跳ねた。 「…でも好きだよね、俺のこと」  腕枕の上でさっきと同じ様に顔だけ向けた葛西が、キメ顔でニヤッと笑った。 「!‘$‘ー::’~%#@@」  く……っ、そぉ…。  カッコよすぎだぞ!もおぉぉっ!  熱くなる顔をどーにも出来ず、口を鯉みたいにパクパクしながら、俺は声にならない悲鳴をあげた。 「はい あったりー」  ふふふ と笑う葛西の声がする。  カァーーッと耳まで熱くなった…。  もー死ぬ…。今すぐ死ねるっ。心臓がドクンドクンいってる。顔だって今までにないくらい熱いから、きっとどっかの血管が切れちゃったのかも…。  だけどホントにこれでいいのか…?  初めてする会話ってこれで合ってる!?  だ…誰か教えてくれっ!!

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