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第3話

先輩との進展がないまま、松若先輩は最後の大会でMVPに選ばれて引退した。 その大会の時、オレは気になっていた道籠先輩の姿を見る事が出来た。 観客席に入ってくるなり応援に来ていた女の子たちが騒ぎだし、それに対して申しなさそうにしているオレよりデカくてガタイが良さそうに見える、ワイシャツを着た男。 顔は遠いからよく分からなかったけど、あれだけ騒がれてるという事は相当の顔なんだろう、ってその時は思った。 「相変わらずの人気だな、道籠センパイは」 「ネットで『イケメンすぎるホテルマン』って紹介されたとかでこないだテレビに出てたよな。相変わらずかっこよかったからあれは騒がれるよなって思ったわ」 そんな先輩方の会話にも松若先輩はいつも通りの素っ気ない感じで、ウォーミングアップを淡々とこなしていた。 「昔はもう少し細い感じだった気もするけどな、道籠センパイ」 「それ言ったらさ、松若センパイって俺ら1年の時、もう少しガタイよくなかった?」 「あー確かに。今じゃ女の子みたいだもんな、松若センパイ。早く走る為に痩せたらしいけど、なんつーか、男にはない色気みたいなのあるよな」 「お前もそう思ってんだ。実はオレも松若センパイってなんか汗かいてる時とかエロく見える時あるよ」 小声で話し出した先輩方の言葉に、オレは自分だけがそう思ってる訳じゃなかったんだと変な安心感と同時にこの人たちってライバルなのかという疑問を抱いた。 けど、道籠先輩の姿と、そこに並ぶ松若先輩を見た瞬間、そんなオレの思いは全て吹き飛んだ……。 -------------------------------------- 「お疲れ様、雅美くん」 「繋……さん……」 道籠先輩は部員たちにと炭酸飲料とお菓子を差し入れてくれて、それをみんなで食べる事になった。 まだ汗の残る松若先輩の頬は紅く染まっていて、その瞳は道籠先輩をうっとりと見ているように見えた。 「かっこよかったよ、すごく。輝いている雅美くんを見られて嬉しかった」 「…そんなことないっす……」 オールバックが似合っている、優しく笑うその顔は騒がれるだけあって男のオレから見てもカッコイイと思うもので、おまけに声もどこか色気のある低くて響きのある声だった。 「雅美くん、唇にクリームついてるよ」 「……あ……っ……」 食べていたシュークリームから飛び出た生クリームのついた松若先輩の唇の端を、道籠先輩はスラックスのポケットからティッシュを出して拭く。 その瞬間、松若先輩は真っ赤になって俯いた。 「ここのクリーム、たくさん入ってるからどうしても口についちゃうよね」 「…………」 何事もなかったようにニコニコしながら話しかけている道籠先輩。 その左手の薬指に金色の指輪が輝いていたのをオレは見た。 ……結婚してるんだ、この人。 じゃあ松若先輩はこの人に片思いとか……なのか? それならオレにもまだチャンスあるじゃん。 なんて思ってしまったんだけど、それは大きな間違いだった事をこの後オレは身をもって知る羽目になった。

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