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第3話◇

『Cross様』と書かれた楽屋に入ると。  蒼紫が、椅子に座ったまま、「遅かったな?」とオレを振り返った。  とってものんきな顔で。 「蒼紫」  オレは、テーブルをはさんで、蒼紫の正面に座った。 「どした?」 「また明日、写真、出るよ」 「あー……また撮られた?」 「今、智さんが社長と電話しに行ってる」  「――――……そっか」  ふー、と息を付いてる蒼紫。 「ほんと、いい加減にしたら?」 「……ていうか、皆暇だよな。オレが誰と会おうと、関係ないのに」 「お前のそういうの気になる人が多いって事だろ。つーか毎回毎回相手違うって、どんだけなんだよ。あと、何でもっと、見つからないようにうまくやんないの?……ファン、減るよ?」  ため息をつきながらそう言うと。  蒼紫は、ふ、と苦笑い。 「オレのファンはこういうので減ったりしないけど。エロイのが好きらしいし。……それに、しょーがねーじゃん。向こうから寄ってくるんだし」 「もう――――……ふざけんなよ……」  はあ、とため息。 「……お前、そんな風にしたくて、歌手目指したの?」 「――――……」  「Cross」は、去年デビューするとともに瞬く間に人気が爆発した。  2人は幼馴染で、一緒に音楽の道を目指して進んだ……ということになっている。けど。まあ最終的にはもちろん目指して、そういう事にはなったんだけど。 少し違う。  最初に音楽業界を目指したのは、蒼紫だけだった。  ギターを習いに行ったり、作曲や作詞の勉強をしたり。それを小学生の時からスタートさせていた。中学の時にその先生から、音楽業界大手の女社長に話がまわり、デュオとしてデビューさせたいという話が急に進んだ。  オレは、その話が持ち上がるまでは、蒼紫のギターをたまに触る程度で、蒼紫の歌を良いか悪いか判定する役でしかなかったのに、ある日。 「お前と歌っていきたい。 歌のレッスン受けてくれない?」  そう言われた。  そんな簡単に、素人がレッスン受けて、デビューなんて、できるのかよ。  何度も断ったけれど、蒼紫は頑として、事務所のデビュー予備軍たちからもう1人を選ぼうとはしなかった。  それからほんと、色々大変だったけど。  ……まあ、元々歌はうまかったというのが幸いして。今、2人でこうやって仕事が出来ている、けど。 「……歌が好きで一生懸命やるために、頑張ったんじゃないの? こんな風な記事ばっかり出てさ、要らない反感も買うだろうし、ファンの子だって幻滅するよ」 「……別にオレ、清純派のアイドルとしてデビューしたわけじゃねーし、そんなにデメリットないだろ」 「……なかったら、智さんがあんなに毎回大変そうになる訳ないじゃん」 「また、智さん?」 「……え?」 「智さんが智さんがって、なんか涼、そればっか」 「……何言ってんの?」 「……何でもない」  ふーーと深い息を吐かれて、咄嗟になんて言うべきかわからず黙っていると、蒼紫が静かに、言った。 「……写真、気を付けるよ」  少しは反省したのかと思い、オレは、うん、と頷いた。

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