5 / 62
第5話◇
「……つーか、さ」
急に蒼紫の手が伸びてきて、オレの頬に触れた。
「……? なに?」
「お前は、たまんねえの?」
「は?……って、ばか……!」
それが下ネタだと気づいた瞬間、カッと赤くなる。
ぷ、と蒼紫が笑いながら、頬から手を離した。
「なに、こんなので顔赤くして…… これだから童貞は……」
「……つーか、蒼紫、マジで殴らせて」
睨んでそう言うと。
「冗談」
蒼紫の軽い抵抗に遭い、結局殴れず終わる。まあもともと殴る気なんか、ないけど。
ひとしきりじゃれあうようにバタバタしてた後、もういい、とまた椅子に腰かける。
「……てかさ、オレ…… 童貞じゃないよ」
「は?」
「……だから……もう違うから」
蒼紫の女癖を責めた、このタイミングで話すことじゃなかったかな、と思いながら。
でももう引っ込められそうにないので、続けて言った。
すると、すうっと真顔になった蒼紫。
「は?……なにそれ、涼」
何。
顔と声、こわいん、だけど。
そう。こういう会話を、蒼紫と、してたんだよ。
ただ、オレが、初体験、済ませたよっていう、話。
それだけだったよな?
蒼紫なんか、中学ん時だったし。
そんな、ビックリされる事……??
なんか、すごい、顔、怖い。
「いつ?」
「しばらく前……」
「相手、誰? オレ何も聞いてねえけど」
「言ってないし…… 言わない」
何だか尋問でもされているみたいで、全然何も話したくない。
というか、もともと、話したい話じゃないから、言ってなかったのに。
……なのに、蒼紫が、童貞、とかからかうから、つい……。
「……お前、見栄はってる? 嘘だよな?」
そんな風に言われると、何だか悔しくなってくる。
なんでオレが、お前にそんな見栄をはらなきゃいけないんだよ。
「……だから……嘘じゃないってば」
蒼紫をじっと、見つめて、ため息をついてしまう。
ともだちにシェアしよう!