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第5話◇

「……つーか、さ」  急に蒼紫の手が伸びてきて、オレの頬に触れた。 「……? なに?」 「お前は、たまんねえの?」 「は?……って、ばか……!」  それが下ネタだと気づいた瞬間、カッと赤くなる。  ぷ、と蒼紫が笑いながら、頬から手を離した。 「なに、こんなので顔赤くして…… これだから童貞は……」 「……つーか、蒼紫、マジで殴らせて」  睨んでそう言うと。 「冗談」  蒼紫の軽い抵抗に遭い、結局殴れず終わる。まあもともと殴る気なんか、ないけど。  ひとしきりじゃれあうようにバタバタしてた後、もういい、とまた椅子に腰かける。 「……てかさ、オレ…… 童貞じゃないよ」 「は?」 「……だから……もう違うから」  蒼紫の女癖を責めた、このタイミングで話すことじゃなかったかな、と思いながら。  でももう引っ込められそうにないので、続けて言った。  すると、すうっと真顔になった蒼紫。 「は?……なにそれ、涼」  何。  顔と声、こわいん、だけど。  そう。こういう会話を、蒼紫と、してたんだよ。  ただ、オレが、初体験、済ませたよっていう、話。  それだけだったよな?  蒼紫なんか、中学ん時だったし。  そんな、ビックリされる事……??  なんか、すごい、顔、怖い。 「いつ?」 「しばらく前……」 「相手、誰? オレ何も聞いてねえけど」 「言ってないし…… 言わない」  何だか尋問でもされているみたいで、全然何も話したくない。  というか、もともと、話したい話じゃないから、言ってなかったのに。  ……なのに、蒼紫が、童貞、とかからかうから、つい……。 「……お前、見栄はってる? 嘘だよな?」  そんな風に言われると、何だか悔しくなってくる。  なんでオレが、お前にそんな見栄をはらなきゃいけないんだよ。 「……だから……嘘じゃないってば」  蒼紫をじっと、見つめて、ため息をついてしまう。

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