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第6話◇
ほんとに、嘘じゃないし。
数か月前、モデルの子と知り合った。
すごく可愛い子で。最初からオレに、すごい好意を持ってくれて。
気が利いて、優しくて、電話で話すのも楽しくて。
もしかしたら、この子なら、好きになれるかな、と思った。
蒼紫を諦めさせてくれるかなって。
――――……オレはもう、ほぼ付き合ってる気分になってて。
もう、必死の覚悟で、初体験。
女の子の体に普通に反応して。反応してくれたことにホッとして。
良かった、なんて思いながら、特別問題もなく、それは普通に終わった。
初体験を終えて。
――――……一番の感想は。心底、出来て良かった。だった。
心配だったから。
蒼紫が好き過ぎて。
オレ、女の子とできなかったら、どうしようって。ずっと怖かったし。
ほんとは。……蒼紫としたいけど。
女好きの蒼紫に、そんな期待は微塵も出来ないし。
だからと言って、他の男なんて嫌だ。絶対、蒼紫を想像しちゃうもん。
蒼紫じゃない人に、蒼紫の事想像しながら、抱かれたくなんかない。
だったら、オレは、女の子と付き合えるようになるしかない。
……ずっと1人なんて、寂しいから絶対嫌だし。
だから、出来て、ほっとした。
これなら、普通に女の子と付き合って、生きて、いけるかも。
蒼紫に持ってしまうこの感情も、女の子への想いに紛れて消えてくれればいい。そうも思えて、すごくホッとした。
蒼紫の女の子関係の色々を聞かされてきた身としては。……ていうか、聞きたくて聞いてた訳じゃないけど。
なんとなく、オレが童貞をついに捨てた事、蒼紫にも言わなきゃなーと思っていたんだけど、なんとなく気恥ずかしくて言えないまま、初体験から2週間ほど経っていたある日。
蒼紫のデートの相手として、オレの初体験の相手の彼女と、仲良く歩いてる蒼紫の写真が、週刊誌に載った。
その写真を見て、ふっと気づいた。
そういえば……よく、人目がある場所に、誘われたっけ。
オレは、噂になったりが嫌で。だって蒼紫がよくすっぱぬかれるのに、オレまでそんなになりたくないし。 それに、その子にも迷惑がかかると思って、やんわり断っていた。のだけれど。
ばっちり顔の写ったその写真は、明らかに、誰かのリークな気がして。そう考えると、最近連絡がなかったこととかも併せて…… 彼女のオレへの態度は、売名行為だったんだなと、悟った。
オレは断ってたから、オレとじゃそういうネタにならないから、蒼紫にいったのかなーとか。急激に冷めて、初体験は、正直忘れてしまいたい過去になった。付き合ってたと思ってたのもオレだけだったんだなーと思って。
もう女の子、トラウマになりそう。なんても思ったりして。
だから、あれは、ノーカウントにすることに自分の中で決めていて。
蒼紫にも、言うつもりは、無かったのに。
からかわれて、ついつい、口が滑ってしまった。
もう違うもん、と、言いたかった、のもあるのかも。
いっつも、じぶんばっかり、大人みたいな。
オレの事は、子供みたいな。可愛いなー、みたいな。そんな蒼紫に、ちょっとムカついてたのかも。
オレもう子供じゃないもんね、と。
言いたかった気持ちが、あったのかも。
「相手誰? いつ? 言えよ、涼」
イヤーな記憶を思い起こしながら、諸々考えていて、ぼーっとしていたオレは、急に、間近に蒼紫の瞳を見た。
「……絶対言わないってば。いいじゃんか、オレの相手なんて誰だって」
絶対言わない。
――――……蒼紫と、同じ女の子で、済ませたなんて。
今後も、ずっと言われそう。
絶対絶対。
蒼紫が好きってのとおんなじ位、絶対に言わない。
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