8 / 62
第8話◇突然の
オレが時計を見たのと一緒に、蒼紫が言った。
「あと30分か……」
「――――……」
本番まであと30分。
……何しようとしているんだろう。
うう。ちょっと本気で逃げたいよ。
蒼紫がスマホを取り出した。少しだけ触って、すぐ耳に当てる。
こんな時に誰に電話……と思ったら、すぐに相手が分かった。
「……あ、智さん? 今、涼に話聞いた。すみません。……はい。それで、この件で、2人で大事な話あるから、楽屋には来ないでもらえる?」
言いながら部屋の入口まで歩いていった蒼紫は、がちゃ、と音を立てて部屋の鍵を閉めて戻ってきた。
「本番には間に合うように絶対行くから、そっちで待ってて?」
そう言って電話を切った蒼紫が、スマホをテーブルに置いて、オレに近づいてくる。
鍵までかけて、智さんに電話までして来るなと伝えて、2人きりになって。
一体何の大事な話があるんだ……。と、もう、ますます逃げたい気分しかない。
「……何、言われても、言わないからね」
「……ふーん」
「……ぜ……っったい言わないから」
「……ふーん……」
至近距離で見下ろされて。
たじろいでると、蒼紫の手が、オレの二の腕を掴んだ。
「……っ……なに?」
「――――……」
すごいまっすぐ、見つめられる。
「っ……オレ、ほんとに思い出したくないんだよ。オレの中ではほぼノーカンなの。だから絶対言わない。やだから」
もう泣きたくなってくる。
蒼紫は、オレの顔をずっと見てたけど。
「……分かった」
そう言ってくれたので。ホッとして。
「……分かったら、離して」
「――――……嫌だ」
「…………??」
何で??
「……蒼紫、近い……」
「わざと」
……そりゃそうだろうけど……。
オレ、そんな事、言ってるんじゃなくて。
「こんな近くなくても、話せるだろ?」
「涼」
「……何?」
いつになく、真剣な瞳に。
――――……眉を寄せてしまう。
なんか。
ドキドキしてしまう。
あんまり近くで、見つめないで欲しい。
「……つか、もう限界。やっぱり、無理だオレ」
「え」
…………限界?
「……何が?」
何、限界って。
――――……なんか。そんな辛そうな声で言われると。
変にドキドキしてしまう。
「涼」
「なに……?」
「オレがこれから言う事。本気だから、ちゃんと、聞いて」
「……な……んだよ、怖いんだけど……」
「真剣に言うから、茶化さないで、ちゃんと、聞いて」
「……うん……?」
……怖すぎる。
幼稚園で出会って仲良くなって、ずーっと一緒に居たのに。
……初めて見るような、表情。
「蒼紫……?」
整いすぎた蒼紫の顔を、ただひたすら、見上げる。
ともだちにシェアしよう!