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第8話◇突然の

 オレが時計を見たのと一緒に、蒼紫が言った。 「あと30分か……」 「――――……」  本番まであと30分。  ……何しようとしているんだろう。  うう。ちょっと本気で逃げたいよ。  蒼紫がスマホを取り出した。少しだけ触って、すぐ耳に当てる。  こんな時に誰に電話……と思ったら、すぐに相手が分かった。 「……あ、智さん? 今、涼に話聞いた。すみません。……はい。それで、この件で、2人で大事な話あるから、楽屋には来ないでもらえる?」  言いながら部屋の入口まで歩いていった蒼紫は、がちゃ、と音を立てて部屋の鍵を閉めて戻ってきた。 「本番には間に合うように絶対行くから、そっちで待ってて?」  そう言って電話を切った蒼紫が、スマホをテーブルに置いて、オレに近づいてくる。  鍵までかけて、智さんに電話までして来るなと伝えて、2人きりになって。  一体何の大事な話があるんだ……。と、もう、ますます逃げたい気分しかない。 「……何、言われても、言わないからね」 「……ふーん」 「……ぜ……っったい言わないから」 「……ふーん……」  至近距離で見下ろされて。  たじろいでると、蒼紫の手が、オレの二の腕を掴んだ。 「……っ……なに?」 「――――……」  すごいまっすぐ、見つめられる。 「っ……オレ、ほんとに思い出したくないんだよ。オレの中ではほぼノーカンなの。だから絶対言わない。やだから」  もう泣きたくなってくる。  蒼紫は、オレの顔をずっと見てたけど。 「……分かった」  そう言ってくれたので。ホッとして。 「……分かったら、離して」 「――――……嫌だ」 「…………??」  何で?? 「……蒼紫、近い……」 「わざと」  ……そりゃそうだろうけど……。  オレ、そんな事、言ってるんじゃなくて。 「こんな近くなくても、話せるだろ?」 「涼」 「……何?」  いつになく、真剣な瞳に。  ――――……眉を寄せてしまう。  なんか。   ドキドキしてしまう。  あんまり近くで、見つめないで欲しい。 「……つか、もう限界。やっぱり、無理だオレ」 「え」  …………限界? 「……何が?」  何、限界って。  ――――……なんか。そんな辛そうな声で言われると。  変にドキドキしてしまう。   「涼」 「なに……?」 「オレがこれから言う事。本気だから、ちゃんと、聞いて」 「……な……んだよ、怖いんだけど……」 「真剣に言うから、茶化さないで、ちゃんと、聞いて」 「……うん……?」  ……怖すぎる。  幼稚園で出会って仲良くなって、ずーっと一緒に居たのに。  ……初めて見るような、表情。 「蒼紫……?」  整いすぎた蒼紫の顔を、ただひたすら、見上げる。

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