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第9話◇
「涼」
「うん……?」
「……涼、あのな」
「……うん」
そんなにためられると、怖いのが増してく。
何、言う気なの。蒼紫。
「オレ、お前の事が、好きだ」
「……?…… ん、知ってるけど……」
一瞬変な意味に取りそうになってしまったけど、そんな訳ない。
好きって、ただの好きだよな? うん。すぐに普通に答えた。
こういう――――……普通を装ったやりとりは、もう、慣れたもので。
……ちょっと切ない慣れだけど、蒼紫とずっと居るには必要だったから。
「ずっと一緒にいて、こんな仕事まで一緒に始めたのに、今更嫌いだって言われても困るけど」
そう言ったら、蒼紫は、即、首を振った。
「……そうじゃない」
「……?」
「……オレは、お前が、好きなんだよ」
――――……また一瞬ドキっとしてしまうけど。
……そんな訳ないから。
でも、思わず首を傾げる。
好き。て言われて。知ってるって言って。そうじゃない、好きって言われて。……? どういう会話???
何て答えれば……。
とりあえず。
……オレも好きって、言わせたいのかな。文句ばっかり言っちゃったから?
「だから知ってるって。分かってるよ。 別にオレだって、お前の事嫌いだから文句言ってるわけじゃないよ、幼馴染だし、これからは一緒に仕事してく大事な……っ」
何が言いたいのかわからなくて真意を測りかねた状態で紡ぐオレの言葉を抑えるように、蒼紫がオレの顎を捕らえた。
まっすぐ上向かされて――――……言葉、失う。
「な……に?」
否応なく、蒼紫を振り仰ぐ。この体勢は……今まで無かったかも。
めっちゃ恥ずかしい。
「蒼紫……離して」
「だから、涼」
「――――……?」
見上げる蒼紫の表情が、歪む。
なに、その顔。
ほんとに、今まで、見せたことのない、真剣すぎる瞳に、ただただ、見つめ返すしか、できない。
「……蒼紫……? ……つかオレ達今なんの話してたっけ……」
なんだっけ。
蒼紫のとられた写真の事で注意してて…… オレの童貞がどーのこーのいう話になって……。
あ、それで初体験の話聞かれたけど、絶対言いたくなくて……。
あれ、それでなんで、オレの事が好きだなんて、そんな話になるわけ?
全く、意味が分からない。
「蒼紫、ちょっと落ち着いて……離れてくんない? なんか近すぎ……」
「……だから……」
「うん?」
「……だから、オレはお前が好きだって何度も……」
「だから、わかってるって、何度も言ってるじゃん」
だから、何が言いたいんだろう。
全然、分かんない。
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