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第10話◇
「とりあえず、離して」
蒼紫の手から離れて、距離を置こうとした瞬間。手を引かれて。
あれよあれよという間に動かされて。
気付いた時には、近くの壁に背をついてて。
蒼紫の手と壁に完璧に挟まれていた。
「そうじゃないんだよ、涼」
「だから ――――……なにが、そうじゃないんだよ?」
「――――……」
「……っていうか、お願いだから、1回離して」
至近距離の、蒼紫の顔に、もはや耐えられる気がしない。
「涼」
「あお……」
振り仰いだ蒼紫の顔が急に近づいて、固まっている間に、唇に、触れる感触。
「……っ……?」
完全に、硬直してると。
唇から、ゆっくりと、蒼紫の唇が、離れた。
「な…… あ、お…………??」
「――――……オレの好きは、こういう意味なんだよ」
「……え」
何も考えられない。呆然としている頬を、両手で挟まれ、ぐい、と上向かされる。
「ごめん、急にキスして。 ――――……でも、ちゃんと分かって」
「――――……」
「一生隠して、そばに居ようと思ってたけど、お前が誰かととか聞いたら……ごめん………一気に無理になった」
「――――……」
「オレ、涼のことが、ずっと好きだった」
嘘、ついたり、ふざけてたり、してないのは、分かった。
本当に、長い、付き合いだから。
本気で。
そう、言ってくれてるのが、分かったから。
なんかもう、聞きたい事は、いっぱいあったし。
考えなきゃいけない事はいっぱいあるのは分かってたんだけど。
オレは。
蒼紫の首に腕を回して、ぎゅ、と抱き付いた。
「……涼?」
「蒼紫、オレ――――……」
少し離れて、真正面から顔を見て。
そっと、キスした。
「オレの好きも――――……おんなじかも……」
蒼紫が、目を見開いて。
じっとオレを見た。
「涼、オレ……後で、お前とめちゃくちゃ話したい事いっぱいあるけど」
「――――……」
「とりあえず、ちゃんと、キス……していい?」
そう言われて。
なんか、蒼紫らしくて、笑ってしまう。
「……うん。いい」
頷いた瞬間。
蒼紫がオレの頬に、優しく触れて。
大好きな瞳が、じっとオレを見つめたまま、近づいてきて。
ゆっくり。唇が重なって、そっと、キスされた。
「……ふ……っ」
完全に固まって、息、止めてたんだけど。
キス、全然、離れないから、息が、零れた。
少し離れて、角度が変って、また、触れる。
「……あおし……」
何度もキスされる間に、名前を呼んだら、蒼紫がふ、と唇を離して。オレを、じっと、見つめた。
「……ほんとに、好き?」
「うん。……ほんと」
「キス、嫌じゃない?」
「……やじゃない」
「――――……」
「……ていうか……」
何て言おうか困ってるみたいな蒼紫を見つめて。
「まだちゃんと信じられないけど――――……嬉しい」
そう言ったら。
引き寄せられて、蒼紫の腕の中に、抱き締められた。
「すげえ、好き、涼」
初めて、聞く。
こんな近くで。
蒼紫の、こんな、熱っぽい、声。
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