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第12話◇
「オレ、涼が好きだ」
「……蒼紫……」
「今までごめん……覚悟決めたから……もう誤魔化さないから」
そう言い切るが早いか、蒼紫の唇がまた、オレのそれに重なった。
そのまま、舌が、口内を動く。
「う……っん……っ」
ぞくぞくする。
背筋を、震えるような感覚が走る。
「……涼が好きだ」
唇の間で囁いて、そのまままた深く、重なってくる。
「ん、ん……っ……」
――――……キスシーンとか見かけるたびに。
蒼紫とキスしたら、どんななのかなあ、と、
想像しかけて――――……いつも、途中でやめた。
こんなの、だめだ、と思って。
考えちゃだめだって――――……。
それが。
急に現実になって、しかも、想像しかけたキスなんか、比べ物に、ならない位。
「――――……っ……ふ……」
息、一生懸命吸うけれど。
――――……ついていけない。
「……あお、し……」
ぎゅ、と蒼紫の腕を掴んだら。
「涼……?」
やっと、少し、離してくれた。
ふ、と上向いた蒼紫は、ふ、と息をついた。
「――――……も、時間だ。もうキスしないから、顔戻して、涼」
「……かお……?」
「本番まであと10分弱だから…息整えて?」
「ほん……ばん……?」
……ほんばんってなんだっけ。
……本番…… あ。
「本番? え、10分……?」
「正確にはあと5分ちょっとでここ出ないと」
「……あと5分……」
顔も熱くて息も早くて、何より、いまだオレは、蒼紫の腕の中にいた。
あと5分……さっき30分前だったってことは……
結構長い時間、キス、してたんだ……。
しかも……あんな、キス……。
なんか、クラクラする。
「涼、正気に戻って。そんなエロい顔で、外には出さねーぞ」
「な……っ」
誰のせいなんだ。
……っなに、エロい顔って。
言われた言葉があんまりで、言葉を失う。
「ほら、顔。 戻せ」
ぶに、と、両頬をつままれて、引っ張られる。
「いたたただだ」
「聞きたいこと、たくさんあるだろうけど、それは後で全部話すから。とにかく――――……顔早く戻して、歌って、早く寮に帰ろうぜ」
「……うん……と、りあえず……離して? 蒼紫……」
「ん」
そこでようやく、そっと手を離して、オレを自分の腕の中から逃がしてくれた。
熱いままの両頬を、両手で挟んで、冷やす。
「……とりあえず…… 歌ってこよっか……」
「おう。………っつか、顔戻せって。そんな顔でテレビなんか死んでもださねーからな」
「……そんな顔ってなんだよ……っ つか、誰のせいだよ……っ」
「……オレだけど、 その顔見ていいのはオレだけ。 二度と、他の誰にも見せんな」
「……」
分かってはいたけど、ほんとにオレ様な……。
マジで、何言ってるか、分かんない。蒼紫のせいじゃんかー!
「もう……っ」
そんな顔ってどんな顔だよっ。もう。
蒼紫に背を向けて、鏡を見るために歩き出した瞬間。
その背後で、急にばちん、という音が響いた。
驚いて振り返ると、蒼紫が両手で両頬を叩いているところ。
「……蒼紫……?」
「ちょっと、自分にも、喝。 お前にキスしたの嬉しくて……すげーにやけそうだから」
「……っていうか、叩くなよ、顔。手形がついた顔のが、テレビ出せないだろ」
「あ、そっか」
「……ばか、蒼紫」
もう。
……なんかバカな会話してたら、熱が少し引いてきた。
「蒼紫、オレ、顔、戻った?」
「――――……ん、まあ。さっきよりはマシだけど……とりあえず、向かってる内に戻るかな。急ごう」
2人で楽屋を出て、スタジオに向かう。
その途中で、智さんに遭遇。
「あ、よかった、来た来た。今迎えに行こうかと思ってたところだよ」
智さんのホッとしたような笑顔。
蒼紫が、すみません、と言ってる。素直に謝るなんて珍しい。
「って、涼、どうかした?」
「……え……」
「なんかすごくぼーっとした顔してるけど…… 熱でもある?」
「だ、い……じょぶです」
ただ、さっきの出来事が、頭をぐるぐる回ってしまってるけど。
……さっきのは、全部現実だったんだろうか。
……夢だったみたいにも思えるけど。
でも、体が浮かぶみたいな、感覚が、全身から消えない。
熱い、舌の感覚が、まだ口の中に、残ってるみたいで。
蒼紫の、真剣な、まなざしが、心の中から、消えない。
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