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第13話◇

 歌番組は。  今までで一番集中できなくて。  なんとか歌詞も間違えずに、歌い終えられたのが、奇跡みたいな。  司会者とのトークは、さりげなく蒼紫が助けてくれて、どうにか終わった。……何話したか、あんまり覚えていない。  で、やっとのことで終わって、智さんと3人で、楽屋に戻ってきた所。 「涼、やっはりちょっとぼーっとしてたね?」 「……すみません」  やっぱりバレてしまった、ばつが悪くて、俯くと。 「さっき蒼紫と話した時からだよね? 蒼紫、いじめたりしてない?」 「オレ涼をいじめた事なんかないし」  即座に答えて、「な?」と蒼紫が聞いてくる。  ちょと無視させてもらっておいて、オレは智さんに向き直った。 「社長は蒼紫の、なんて?」 「そうそう。……蒼紫のキャラだからまだマシだけど、まだ高校生なんだし、いい加減に色んな相手とのデート写真撮られるの、やめなさいって。寮生活だから外で会うしかないのは分かるけど、そろそろペナルティ課すわよって言ってたよ」 「「ペナルティって?」」  蒼紫とオレ、同じタイミングで同じ事を聞いた。  ……だって、気になるし。  そしたら智さんは、クスクス笑って、首を傾げた。 「さあ。そこは聞かなかったけど、社長の事だから、そろそろ怖いと思うよ?」  女性ながらに、大手プロダクションの社長。  普段は優しいけど、厳しい時は、めっちゃ怖いと評判。  蒼紫の事は、初めて会った時から気に入って、ある程度大目に見てくれてるみたいだし。オレにとっては、いつもとっても優しい社長、なんだけど。  ……なんだろう、ペナルティって。ドキドキ。 「……オレ、もう2度としない」 「え?」  蒼紫の言葉に、智さんは、びっくりした顔で、蒼紫をまっすぐ見つめた。 「もう、無いよ、写真撮られる事」 「何々? いーの、そんな宣言しちゃって」  クスクス笑う智さん。 「ん、絶対しないから」 「社長にその言葉伝えちゃうよ?」 「いいよ」  蒼紫が、まっすぐに智さんを見て、頷いてる。  智さんは、ふーん?と面白そうな顔をして。 「一応、反省したっぽいって伝えとく。そんで、しばらく様子見とこうかな?」  そう言って、クスクス笑った。  それから帰る支度をして、智さんが運転してくれる車の後部座席に2人で乗り込んだ。 「少し遅くなっちゃったね。明日は5時間目まで学校で、その後、門まで迎えに行くから。雑誌のインタビューと、写真撮影ね。」 「はい」  返事をしてしばらく、無言。  少しして智さんがラジオを付けて、そしたらたまたま、オレ達の歌が流れていた。 「――――……」  蒼紫とオレの、歌。      さっき。  ……オレ達。  たくさん、キスした。  …………なんか。  嘘みたい。    蒼紫とキスしたり。  好きって、言ってくれたり。  …………ずっと好きだったって。  ――――……ずっとって。  でも蒼紫、女の子が好きなんだと思ってた。  …………でも、さっきの蒼紫は、嘘はついてなかった。  蒼紫と反対の窓からずっと外を眺めていたら、とんとん、と蒼紫につつかれた。  無言で、蒼紫を振り返ると。  まっすぐ、オレを見つめる蒼紫。スマホを取り出して、オレに見せてくる。  しばらく蒼紫が自分のスマホに触れて。すると、オレのポケットのスマホが震えた。 『寮に帰って、寝る準備出来たら、オレの部屋に来てくれる?』  今日はリハの前に食事は食べたので、シャワーさえ浴びてしまえば、終わる。 「シャワー浴びたら、行く」  そう入れると、『待ってる』と蒼紫から。   『聞きたいこと、あるだろ、いっぱい』    それを見て、しばらくためらってから。 「ある」と入れると、すぐに『全部話すから』  分かった、とだけ答えて。  スマホをしまう。  なんかすごく、気持ちが逸るというのか。  早く、話したいような。  ……少し、怖い、ような。  寮に近付くにつれて、すごく、ドキドキして。  ただひたすら、窓の外を見つめていた。

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