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第14話◇
智さんと別れて、寮に戻る。
門限の22時ギリギリ。
オレ達が通ってるのは、芸能人やスポーツで有名な奴とか、少し特殊な生徒が多く通う高校。もちろん普通の生徒も居るけど、そういう高校だって認識して入ってきている。
一芸での入試が取り入れられてて、芸能活動とか、スポーツ活動での遅刻早退欠席を、かなり優遇してくれる。そういうクラスメート達が多いから、周りも全く気にしない。
その高校の男子寮だから、多分、他の高校の寮に比べたら、かなりルールは緩い。特に時間的なルールはあまりない。一応門限がある位で、それも事前に届け出てれば、文句も言われない。
食堂も、5時から21時半まではオーダーできるし、寮の中はほぼ自由。
スポーツジム的な施設も完備、カラオケルームや、バンドの練習部屋もあって、予約表に名前を書くだけで、空いてれば深夜以外はいつでも使える。
部屋は、個室で、風呂トイレ完備で、快適。
ちなみに、女子寮は、高校を挟んで反対側に建っている。
受付で寮長の斉藤さんに会って、「ただいまかえりました」と挨拶する。お疲れ様、さっきテレビ見たよ~、と言われて、軽く会話をして別れてからは、2人共、無言だった。
オレは、何を話していいか、よく分からなくて。
蒼紫が黙ってるのは……多分、オレが黙ってるから、かな、と思うけど。
「……じゃ――――……あとでね?」
オレの部屋の方が先なので、鍵を開けて、ドアを開いた。蒼紫の部屋はオレの隣、一番廊下奥の部屋。
「ん、待ってる」
言われて、見つめられて。
どき、と胸が弾む。
…………何も言わず部屋に逃げ込んで、鍵を閉めたドアに寄りかかる。
何か。
ヤバい位に好きな気持ちが溢れ出しそうで。
どうしよう。
絶対無理だと思って、絶対内緒にしようって思って、
絶対忘れるって思ってた時だって、
大好きだったのに。
……好きなんて言われて、
大好きでいていいのかって思ってしまったら。
……際限なく、好きに、なっちゃいそうで。
でもちょっと待って。
と、自分を落ち着けようとする声が聞こえてくる。
何で蒼紫、急にあんな事言ったんだろ。
……オレが、初体験済ませたって話をして……。
そしたら、蒼紫、多分、ヤキモチ、妬いて……。
…………その勢い??
ヤキモチ妬くくらいオレの事。好き。ていうのは。知ってるんだけど。
それがイコール、恋愛感情かって。 謎……。
歌を一緒にって言った時だって。
オレは散々無理だって言ったし。
社長だって、最初は、「素人の幼馴染? 無理無理」って言って、話も聞いてくれなかったそうだし。当たり前だ。
なのに、どうしても、涼が良いって蒼紫が言った。
涼が必要な事全部身に着けて、それでも無理だって言うなら諦めるとか社長に言って。しかも、オレ、それ、了承してないのに。
社長に会わされて、ルックスや声はいいけど……歌は? ダンスは? 芸能人としてやってく気、ある?とか、散々聞かれて。
…………無いし。オレ、それまで考えた事も無かったし。
やる気のないオレを、真反対にやる気しかない蒼紫が、めちゃくちゃ社長にプッシュしたおかげで、出来るかも分からないデビューの為に、オレがどんだけ色んなレッスンさせられたか。
ダンスだけは小学校からやってたから、それだけは良かったけど。
ギターは蒼紫に教わって、少し真似して弾ける位。歌はカラオケが好き、程度だったし。
芸能人になるなんて、かけらも想像もした事なかったから、何の心構えもないし。
それでも、蒼紫とずっと居れるかもっていう気持ちだけで、頑張ってレッスンを受けた。蒼紫の事、好きじゃなかったら、絶対やってないし。
かなり動機は不純だけど。……でも、その動機は、何より強くて。
結局、社長も折れて。
認めてくれたんだっけ。
……だから。
蒼紫が、組む相手を事務所の候補から選ばずに、無理無理オレを引っ張り込む、位は。一緒に居たいって思ってくれてたのは、知ってるんだけど……。
それって、恋愛感情なのかな……。
そこ、確認してから、喜ぶことにしよう。
ぬか喜びは嫌だ。
大体にして、蒼紫は、女の子とめっちゃ噂になってたし。
……どんだけ女好きなんだと、勝手にムカムカしてた位だし。
……まあ、これは、蒼紫は別に悪くないんだけど。
「シャワーあびよ……」
へばりつくみたいによりかかってたドアから体を起こして、バスルームに向かう。
服を脱いで、洗濯機に突っ込んでいく。
目に入るのは。
自分の、男の体。
……男なんだよね、オレ。
蒼紫いいのかな。
オレ、胸無いよ??
鏡に映る自分は、知らない内に、むー、と膨らんでいた。
そのまま、じっと下を見下ろす。
……ついてるし。
…………さっき、キス、いっぱいしたけど。
正直、キスだけなら、あんまり性別関係なく出来る気がする。
そんな、関係ない。
それ以上ってなると。
…………男女の差って、大きいよー??
蒼紫、いいの?? …………良くないよね??
うーんうーんと、唸ってしまいそうになりながら。洗面台に両手をついて、がっくりうなだれる。
オレは。
もう、ずいぶん前から蒼紫が好きで。
……自分で触る時とかも。
ダメだと思いながらも、蒼紫に触られる事、想像することもあったし。
……蒼紫のって、どんなかなあとか。
…………ヤバい事も、山ほど考えてたし。
まあ結局ヤバい想像は、全部途中で恥ずかしくなって終わるんだけど。
でも、とにかく、少しはそういう想像もしてたから。
いまさら、嫌悪なんかあるはずがない。
……ていうか、嫌悪じゃなくて、もう、憧れ??的な?
………………て、オレはほんとに何考えてるんだろ。
「だから、シャワーあびなきゃ……」
もうなんかフラフラする。
シャワーを出して、頭洗って、体洗って、顔を洗って……
洗うとこが無くなってくると、蒼紫の所に行くのが近づく気がして。
もう一回頭洗おう……なんて、シャンプーを2回もして、リンスも相当時間を置いた。
無駄な抵抗を延々続けていたけれど、結局洗い終わってしまって。
のそのそとバスルームを出て、ゆっくりゆっくり、体を拭く。
うう。
シャワー時間が、もうすぐ終わっちゃいそう。
どうしよう。
……もいっかい、浴びようかな……。
なんて考えてた時。
さっき、ズボンから出して、置いておいたスマホが鳴り始めた。
……蒼紫だ。
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