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第23話◇取材
【side*涼】
門を出ると、智さんが待っていた。
車の後部座席に、蒼紫と一緒に乗り込む。
「今日は事務所のスタジオで写真撮って、別室で取材ね」
「はい」
「3社分まとめるからちょっと長いかも」
「でも今日取材だけなんでしょ? 早めに終わる?」
オレが聞くと、智さんは運転しながら頷いた。
「ん、多分早めに終わると思うよ」
「早めに寮に帰れる?」
蒼紫がそんな風に聞いてる。
「うん、昨日よりはずっと早いと思うけど。珍しいね寮に早く帰りたいとか。遊びに行けるかとかならよく聞かれたけど」
智さんがクスクス笑う。
す。するどい。
――――……なんかすぐ、ちょっと変わった事に気付く。
マネージャーさんとしては、すごく気が付いて、優秀な人なんだと思う。
すごく居心地よくて、頼りにできる。
……けど、なんか。
いつか、バレそうで。
1人でちょっとドキドキしていると。
蒼紫の手が、す、とオレの手に、触れた。学校の鞄を、オレ達の間に置いて、その後ろで。きゅ、と手を握られる。
「――――……っ」
手を繋いでるだけなのに。
なんかもう、幸せだし、恥ずかしいし、なんか嘘みたいで、頭ほわほわするし。触れてる手が、大好きすぎて、困るし。
心の中、いっぱいいっぱいで。
きゅ、と握り返すと。
隣の蒼紫が、ふ、と笑う気配。
でももう、蒼紫の方なんて、向けない。
これで、優しく微笑まれたりななんかしちゃった日には。
……溶けて無くなる気がしてしまう。
鞄が置いてあるし、智さんに後ろを見られたって、絶対バレない感じでつないでいる手に、心臓がやばい位ドキドキしたままで。
事務所の駐車場に着く前に、すり、と指を撫でられて、そのまま離れて。
――――……なんか。
もう。ポワポワ幸せ過ぎて、胸が苦しすぎる。
車を降りて、事務所に入る。
「今日1社は色んな制服着る事になってるから」
「制服?」
「ほんとにある高校のじゃなくて、カッコいい制服特集、みたいな感じ」
へえー。
蒼紫の制服姿、色んなの見たい。
オレのはどーでもいいけど。
蒼紫のは何着、見てもいいなあ。
なんでも似合うし。楽しみー!
ウキウキしながら事務所の中を、智さんに案内されるままに進んでいると。
「蒼紫、涼」
あ、この声は。
「社長」
振り返って挨拶する。
長いストレートの髪。いつ会ってもきちんとスーツで、綺麗な女性。
親父さんから引き継いだとは言え、40代で立派にこなしてる敏腕社長。
その人が蒼紫を見て、ちょっと眉を顰めた。
「蒼紫、今日、雑誌出てるからね」
「はい。 すみません。二度と無いように、しますから」
蒼紫がそう言うと。
社長は、クス、と笑った。
「二度ととか言っちゃっていいの? 聞いたわよ?」
「二度と。興味ない人と出かけたりしないんで」
「へえ?……ていうか、興味ないって。今日の雑誌の相手は?」
「ただちょっとご飯食べただけです」
「――――……」
「そういうのも今後行かないんで、大丈夫です」
蒼紫がめちゃくちゃはっきり、宣言してる。
――――……その言葉の意味は。
多分、オレにしか、分かってない。
智さんと社長が、顔を見合わせて、苦笑い。
「ほんとにそうならいいけど」
「まあ、見ててもらえれば。ほんとに大丈夫です」
「そんなに言い切られると、逆に何なのか心配になるけど」
「涼と約束したんで、守りますよ」
蒼紫があくまではっきりと言い切ると。
社長と智さんがオレを見つめて。
「涼と約束したなら、守るのかも。 涼、ごめんね、よろしくね」
「……はい」
そんな風に社長に言われて、オレは頷きながらも、苦笑い。
「社長、そろそろ2人着替えないと」
智さんの言葉で、社長と別れて。
オレと蒼紫は、智さんにある部屋に入れられた。
「とりあえず、着替える制服に番号がついてるから、その順番に着る感じ。とりあえず今は1番の制服を着てくれる? オレ、隣の部屋で、カメラマンとかと挨拶すまてせておくから。着終えたら、隣に入ってきて? メイクは軽くそっちでやるって」
「はあい」
必要事項を言って、智さんが出て行ってすぐ。
「涼」
「わ」
ぐい、と引き寄せられて、ドアが開いてもすぐに見えない位置に隠されて。
ちゅ、と優しくキスされる。
「制服色んなの着るとか」
「ん?」
「すげえ萌えるかも……着替えるのはめんどくさいけど、お前の色んな制服着てるの見れるのは、嬉しい」
ちゅ、と頬にキスされて。
じと見つめてしまう。
わー。
…………オレと同じ事思ってた。
「……何? キモイ?」
蒼紫が苦笑い。
「……オレも、蒼紫のは見たいって、思ってたから。おんなじ」
見つめ合って、ぷ、と2人で笑い合う。
なんか。どうしよう。
めちゃくちゃ幸せ、なんだけど。
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