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第29話◇
お弁当、食べ終わって、一緒に片づける。
片づけ終わって時計を見ると、20時半。今日は早い。
「涼、何かやる事あるか?」
「んー……無いかな」
「じゃあ、寝る準備して、明日の用意もしてから来いよ」
「――――……今日もここで、寝ていいの?」
思わずそう聞いたら、蒼紫は、じっとオレを見つめた。
「ずっとここで寝てくんないの?」
う。わー……。
なに、それ。
超すごい、キュンが胸を突きさした……。
ドッドッと、心臓が、早くなる。
「涼?」
「準備、してくるね?」
「ん、待ってる」
蒼紫が頷くので、そのまま蒼紫の部屋を出て、自分の部屋に戻った。
鍵を開けて中に入って、入った所でしゃがみこんだ。
うわー。うわー。うわー
なんか。もう。
蒼紫って。どんだけ……。
どんだけ、好きにさせてくれるんだろう。
どうしたらいいんだろ。もう。
ああ。もう。
――――……好きすぎる……。
長い長い初恋が。
絶対叶わないと思ってた、初恋が。
相手も幼稚園の入園式からの初恋だったとか言ってくれて。
叶ってしまうとか。
もう奇跡……。
もうどうしていいか、よく分かんない位好きで。
どうしよう。
ちょっと落ち着こうと思うんだけど。
――――……全然落ち着ける気がしない。
とりあえず。
明日の用意……。
明日の仕事って何だっけ……。
スマホで、智さんからの予定を確認。
朝は学校。明日も5時間までは居られるんだ。2日続けて昼過ぎまで居られるのは、珍しい。
その後はダンスと歌のレッスンとかぁ。あとオレはギターのレッスン。
蒼紫はギターのレッスンをする必要がないから、オレだけ。一緒に来て、一緒に弾いてくれる時もあるけど、先生に色々指導されるのは、オレだけ。
蒼紫と一緒に弾いて歌う曲もあるから仕方ない。すごい一生懸命練習してるけど、やっぱり経験値が全然違う。蒼紫はミスしないけど、オレはたまにミスるし。
そこらへんは、まだまだ大変。
出遅れがまだ全然取り戻せてない。
とりあえず明日はレッスンの日かぁ。頑張ろ。
学校の用意だけ済ませて、歯を磨く。
冷蔵庫から水のペットボトルとスマホだけ持って、自分の部屋に鍵を閉めて蒼紫の部屋に戻った。
「おかえり、涼」
「ん。明日はレッスンの日なんだね」
「あぁ、そうみたいだな」
「緊張しなくていいけど」
「ん」
クス、と笑われる。
もちろん大分慣れてはきたけど、やっぱりまだテレビ番組とかは緊張はし続けてる。
蒼紫は、緊張しないんだよな、どうしてだろ。
ほんと、大物になりそう……。
「もう寝る準備までできた?」
「うん。歯も磨いてきたよ。あと寝るだけ」
「そっか」
机の所で教科書を揃えていた蒼紫が、それを全部鞄に入れた。
「オレも終わり」
「ん」
「まださすがに寝るの早いけど――――……何したい? 涼」
「え。何したい……」
何したいって。特に考えてなかったけど――――……。
「何でもいいの?」
「いいよ」
「じゃあ、何か映画一緒に見たい」
「いいよ。何が見たい?」
「何か面白そうなの配信されてる?」
「どうだろ……」
蒼紫がテレビのスイッチを入れて、配信サービスのトップ画面を開く。
「何かあるか?」
「――――……あ。 歩生が出てる映画、新着になってる」
「あぁ。ほんとだ」
|羽柴 歩生《はしば あゆむ》は、同じクラスの役者の子。
まだ主演じゃないけど、最近、主演の友達とか、相手役とか、出番が多くなってきてる気がする。
「これにする?」
蒼紫が振り返るので、うん、と頷いた。
「そういえば歩生も最近忙しいから学校で会わないな」
再生ボタンを押してからそんな風に言って、オレが座ってるベッドに歩いてきて、隣に座った。でもすぐに。オレの背後に回って座り直した。
「涼、足の間にはまって」
「え?」
なにその恥ずかしい要求。
かあっと赤くなる。と。
「こっち」
ウエスト掴まれて引き寄せられて、蒼紫の前に座らされる。
蒼紫の手が前に回って、ウエストを抱き締めた。
「――――……すごい、くっついてる感じ」
「うん。いいだろ?」
「……いいけど。恥ずかしいかも。ものすごく」
言うと、蒼紫はクスクス笑って。
「――――……オレはこれ、幸せすぎ」
そんな風に言われて、むぎゅーと抱き締められて。
何だかもう何も言葉が出てこない。
映画が始まって、歩生が出てくる。
恋愛映画の主人公の幼馴染の役。ヒロインとの三角関係。
「――――……三角関係、辛いねー」
ぽそ、と感想を言うと、「ん」と蒼紫が頷いてる。
「しかも幼馴染と取り合うとか。大変……」
「――――……ん。そうだな」
幼馴染と、1人の子を取り合う、か。
――――……オレの初体験の子……。
オレも蒼紫も本気になってたりしたら、こんな風になってたのかなあ。
あーでも。オレ、そこまで本気になれても無かったし。蒼紫は……どの程度の気持ちだったんだろう。
オレより好きになれる子探すつもりで、女の子に会ってた、て言ってたから。少しはそんな可能性もあった、のかなあ……。
うーん。でもなあ……オレがもし蒼紫とそんな事になりそうだったら、即身を引くから、こんな風には絶対ならないよなあ。ていうか、オレが蒼紫を大好き前提で考えても、映画とは違うよね。うん。
何考えてンだろ、オレ……。
自分に突っ込みを入れていた時。
「今のシーン、無くねえ? いくらライバルっつったって、幼馴染が大事だったら今のは絶対ねえよな?」
「え?」
急に言われて、ぱ、と蒼紫を振り返った。
蒼紫はきょとん、として。 ぷ、と笑った。
「お前、全然見てないだろ」
「あ。ごめん。――――……ちょっと別のこと、考えてた」
「……今見なくてもいいか? これ」
「あ、うん……」
蒼紫は立ち上がって、リモコンでテレビを消して、戻ってくる。
「ごめん、オレが見たいって言ったのに」
「別に。全然いいよ」
「? あお――――……」
側に来た蒼紫がすごい至近距離になって、次の瞬間、ベッドに押し倒されていた。
「――――……」
オレの顔の横に蒼紫の手がついて、真上からまっすぐ見つめられる。
「映画より、涼とキスしたいなーて思ってたから」
「……っ」
「いい?」
ふ、と瞳が細められて。唇が笑みを形作る。
そんなに優しく、見つめられて。
頷く以外、出来る訳、無い。
頷いた瞬間、また蒼紫がもっと優しく笑って。
ゆっくり顔が近づいてきて。
ゆっくり、唇が、重なる。
触れるだけ、なのに。
胸が半端なく、ドキドキいってる。
「手。首に回して……?」
そんな風に言われて。そろそろと、首に巻き付ける。
――――……なんか。すごく、密着してるみたいになって。
余計心臓の音が大きくなった時。
舌がゆっくり、絡んできた。
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