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第39話◇
優しいキスが終わると、すっぽり抱きしめられた。
「明日は5時間目まで学校で、その後はレッスンだよな」
「ん、そう。ダンスと歌は蒼紫と一緒で…… オレ、ギターもある」
「曲作りしながら、待ってるから。頑張れよ?」
「うん」
頷きながら、何となく眠くなってきて、瞳を伏せる。
「そういえば……週末は、なんか地方に行くって言ってたよね……」
「ああ、なんか泊りでって言ってたな……」
「何の仕事なんだっけ……」
のんびり聞いてると、蒼紫がオレの頭をナデナデしながら、クスクス笑う。
「眠い?」
「……うん、少し」
「寝ような。……多分、週末はロケだって言ってたと思うけど。珍しいよな」
「明日智さんにちゃんと聞かないとだね……」
「そうだな」
言いながら、蒼紫がオレの頭をひたすらナデナデしている。
「……仕事より、涼と泊っていうのがいいなー」
「うん……そだね」
「同じ部屋にしてもらお」
そんな風に言う蒼紫に。
オレは、ぱち、と目を開けて、見上げた。
「今まで、絶対別の部屋って言ってたじゃん……」
「え。――――……って、そりゃそうだろ」
「……?」
「告白もしない状態で、同じ部屋で我慢なんて、拷問に近いだろ」
「――――……」
理解すると同時に一気に顔が熱くなる。
……つかもう。
恥ずかしいな、蒼紫ってば。
――――……ていうか。そう言う事だったのかぁ……。
……オレは、その「絶対別の部屋」ていうのに。
少なからず、傷ついていたんだけど。
まさか、そんな事だったとは……。
「……オレ、寂しかったんだけど」
「え?」
「絶対別の部屋がいいって、言われて」
「――――……」
蒼紫がオレを、覗き込んで、ちょっと困った顔をしている。
「オレと同じ部屋、嫌なんだって思って」
「あー……ごめんな?……」
「………………」
「……涼?」
心配そうに見つめてくる蒼紫に。
ぷ、と笑ってしまう。
「……そんな事だったんだーって……笑っちゃうね」
そう言ったら。
蒼紫はオレを抱き締めて、ぎゅううう、と包む。
「……これからは、もう寂しいとか思わせないから」
「――――……」
「……それでももし思ったら即言って。気づいてないだけだから。涼に寂しいとか、絶対思わせたくないって、オレ、思ってるからな?」
じっと見つめられて。そんな風に言われると。
「……ありがと、蒼紫」
「――――……」
「……オレ、すっごい嬉しい、みたい」
「――――……今まで色々あったよな。ごめんな」
「……オレにだって色々あったでしょ?」
そう言ったら、ちゅ、とキスされて。
「今こうしてられるし……これからずっとこうしてるから」
そんな風に、言われる。
蒼紫が好きって言ってから。オレが好きって、応えてから。
――――……蒼紫の言葉は、ずっと、まっすぐで。
未来に何の不安も持たないで、ずっと蒼紫だけ見てられるような気すら、してしまう。
……なんだかなあ、もう……。
「オレ、蒼紫のこと、好きすぎなんだけど」
「――――……はは。いいな、それ」
「……好きすぎると、困る」
「何で? 困るなよ」
「……こんな好きだと、困るよ」
「何で困んの?」
「……胸が、痛い」
言うと、ははっと笑って。
蒼紫がオレをまっすぐに見つめる。
「痛いとかじゃなくて、幸せだなーって、思ってろよ」
すぽ、とまた抱き込まれて、よしよしと優しく撫でられる。
「あー……。さっきから寝ようって言って全然寝てねーな……」
「――――……うん」
2人で、クスクス笑ってしまう。
「……寝ていーよ、涼」
「……うん。また明日ね、蒼紫……」
「ん……」
髪を撫でる手に眠気を誘われて。
すぐ、眠ってしまった。
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