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第46話◇
「蒼紫」
「ん?」
「……超カッコよかった」
こそ、と蒼紫にだけ聞こえるように言うと。
すごく嬉しそうに、蒼紫が笑う。
「オレ、お前にカッコいいって思われたくて、生きてるよーな気がするから。もっと言って」
冗談めかしてるけど、なんだか瞳は本気な気がする。
「何それ」
クスクス笑ってしまう。
「そうなの?」
「そうだけど?」
蒼紫はタオルを頭にかけて、口元拭きながら。
「――――……オレら、アイドルで売った訳じゃねーのに、アイドルみたいな事、させられただろ?」
「うん」
「オレ、最初、すげー嫌だったわけ」
「……あれ? そうなんだっけ?」
最初から、カッコいい蒼紫、ノリノリで演じてたような。
「――――……すげー嫌だと思ってたらさ」
「うん?」
「涼が言ったんだけど……」
「うん……??」
「蒼紫が超カッコイイから、皆、カッコいいとこ見たいんだよね、って。オレ、カッコいい?て涼に聞いたらさ、誰よりも一番カッコいいよって」
「――――……」
「涼がそう言ったから――――……じゃあ涼に、カッコいいオレを見せようって……」
「――――……」
「あー。覚えてない、か?」
「――――……」
覚えてる。ていうか、思い出した。
――――……それ。最初の言葉は、智さんが、蒼紫に言ってって。頼まれたんだ。
そうだ、なんか、歌よりも顔をメインにしてるみたいな、アイドル路線の仕事を、蒼紫がちょっと嫌がってる、みたいな事、智さんが言って。
涼がカッコイイって言えば、きっと、蒼紫は頑張るからとか言われて。
蒼紫にカッコいいって言うとか、オレ、ちょっとものすごく恥ずかしいんだけど、って思ったし、オレのカッコいいを蒼紫が喜ぶとか、思えなくて。
でも智さんが、多分効くから、って言って。
蒼紫にカッコいいかって聞かれて、誰よりカッコいいって言ったのはオレの言葉だけど。
「覚えてる?」
「うん。……言ったの、覚えてる」
ちゃんと、効いてたのか、とびっくり。
――――……智さんて。
あの頃から……薄々、何か、思ってるのかな…………?
あ、でも智さんは、蒼紫の女癖も知ってるから、そっちが蒼紫だと思ってる、かな??
智さんってすごく気が利いて、優しくて、マネージャーさんとしては、ほんとに、最高な人、なんだけど……。
「……蒼紫は、オレがカッコイイって言ったから、アイドルみたいな感じ、頑張ってくれたの?」
そう聞いたら。
そう、と、笑う蒼紫。
「お前があれ言ってなかったら、多分、社長に文句言いに行ってた」
「――――……」
そうだったんだ。
――――……智さん。
さすが。
でもって。
蒼紫。……結構、単純だったのか。
そんなに、オレの「カッコいい」が嬉しいとか。ちょっと可愛い……。
……もう、今更だけど、嬉しいな。
あとで、オレからキス。
…………いっぱいさせてもらおう。
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