49 / 62

第49話◇ドキドキ

 あの後、学校を出て、蒼紫と一緒に智さんの車で本社にやって来た。  まずダンスレッスン。  オレ、ダンスは子供の頃からやってたから、覚えるとかは、蒼紫よりオレの方が圧倒的に早い。ダンスは慣れだと思う。  そもそも蒼紫は踊るとかは考えていなくて、歌で勝負、て思ってたみたいだから、ダンスはやってきてなかった。  社長がミュージックビデオもだし、歌番組でも、多少踊れた方が絶対にカッコいいと言い張って、そこは蒼紫が譲歩した。大体にして、オレの事で相当我儘言ったから、蒼紫に拒否できる権限はなかったような気がするし。  それでも、やってもものにならなくて、踊った方がみっともないなんて事になるなら、歌だけでって話だったみたいだけど。 「――――……」  オレが覚えた所、蒼紫がちょっと苦戦してて、今、オレだけ休憩中。  目の前で、蒼紫が練習してるとこ、水を飲みながら、体育座りで眺める。  ダンスって、ある程度は皆、練習すれば踊れるようになる。うまいへたはもちろん、あるけど。子供の頃から色んな奴見てたけど、うまいけど華が無い奴も居たし。皆と揃えるのは苦手だけど、すごく目立つ踊りをする奴も居た。  蒼紫はといえば。  ――――……うまい下手、関係なくて。ものすごく、目を引く。  まあ、うまいとも思うけど。  デビューが決まってから、短期間で無理やり練習したなんて、きっと誰も思ってないだろうな。  オレが蒼紫を好きだからとか、そんなのはとっぱらっても、惹かれる人が多いと思う。華があるっていうのは、努力じゃ追いつけない、生まれ持った才能なんだろうなと、蒼紫を見てるといつも思う。  ほんとに何しても様になる、特別な人、な気がする。 「はい、OK、10分休憩」  先生がそう言って、部屋を出て行って、蒼紫は、飲み物を手に、オレの隣に来て、どか、と腰を下ろした。  汗、すごい。  タオル、頭にかけて拭きながら。 「あっつ……」  どき、とする。  ――――……なんか。汗かいて。息キレてて。  ……わーん、エロいよー、蒼紫……。  今の蒼紫は、完全にダンスで疲れてる、超健全蒼紫なのに。  オレがバカなんだーわーん。  めちゃくちゃドキドキして、蒼紫の事が見れない。 「――――……悪い、涼」 「……え?」  口元タオルで抑えたまま。 「オレが覚えんの遅いから待たせて」 「――――……」  乱れた前髪から、真剣に。ちょっと悔しそうに、そんな風に言われると。  ドキドキドキドキ。  ……オレ、今までこういう時、どう対処してたんだっけ。  あ。分かった。今までは、ひたすら、そういう目でみちゃだめだって、思ってたから。セーブできてたんだ。  今、オレ、そういう目で見て良いんだと思っちゃってるんだ、きっと。  いやいや、でも。今の蒼紫はほんとに真剣なのに。オレのバカ。 「……だ、いじょうぶ……」  何とか答えたら。  腕掴まれて、ぐい、と引かれた。 「何? 怒ってる?」  じっと見つめられて。  ドキドキのせいで。もう。真っ赤になったオレ。 「――――……涼?」  ふ、と蒼紫の瞳が緩んだ。  ああもう。蒼紫は今、変なこと何も考えてないのに。 「どした?」 「――――……ごめん、なんでも、ない。熱い、ね」  もうダンスのせいにしておこうと思った瞬間。  ぐい、と頬にかかった手に引き寄せられて。  ちゅ、とキスされた。 「可愛い顔して、何? 何でもないって」  先生がすぐ戻って来るかもしれないのに。キスなんか、普通にして。  すぐ離れて、クスクス笑ってくる。 「……っ……っっ」  もうほんと。ダメだ。好きすぎて。  抑えるのが、大変。ドキドキしすぎで、心臓が、痛い。 「……蒼紫のダンスは、カッコいいよ。覚えるの遅くもないし」 「――――……ん」  オレを見て、蒼紫は、ふ、と笑む。

ともだちにシェアしよう!