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第49話◇ドキドキ
あの後、学校を出て、蒼紫と一緒に智さんの車で本社にやって来た。
まずダンスレッスン。
オレ、ダンスは子供の頃からやってたから、覚えるとかは、蒼紫よりオレの方が圧倒的に早い。ダンスは慣れだと思う。
そもそも蒼紫は踊るとかは考えていなくて、歌で勝負、て思ってたみたいだから、ダンスはやってきてなかった。
社長がミュージックビデオもだし、歌番組でも、多少踊れた方が絶対にカッコいいと言い張って、そこは蒼紫が譲歩した。大体にして、オレの事で相当我儘言ったから、蒼紫に拒否できる権限はなかったような気がするし。
それでも、やってもものにならなくて、踊った方がみっともないなんて事になるなら、歌だけでって話だったみたいだけど。
「――――……」
オレが覚えた所、蒼紫がちょっと苦戦してて、今、オレだけ休憩中。
目の前で、蒼紫が練習してるとこ、水を飲みながら、体育座りで眺める。
ダンスって、ある程度は皆、練習すれば踊れるようになる。うまいへたはもちろん、あるけど。子供の頃から色んな奴見てたけど、うまいけど華が無い奴も居たし。皆と揃えるのは苦手だけど、すごく目立つ踊りをする奴も居た。
蒼紫はといえば。
――――……うまい下手、関係なくて。ものすごく、目を引く。
まあ、うまいとも思うけど。
デビューが決まってから、短期間で無理やり練習したなんて、きっと誰も思ってないだろうな。
オレが蒼紫を好きだからとか、そんなのはとっぱらっても、惹かれる人が多いと思う。華があるっていうのは、努力じゃ追いつけない、生まれ持った才能なんだろうなと、蒼紫を見てるといつも思う。
ほんとに何しても様になる、特別な人、な気がする。
「はい、OK、10分休憩」
先生がそう言って、部屋を出て行って、蒼紫は、飲み物を手に、オレの隣に来て、どか、と腰を下ろした。
汗、すごい。
タオル、頭にかけて拭きながら。
「あっつ……」
どき、とする。
――――……なんか。汗かいて。息キレてて。
……わーん、エロいよー、蒼紫……。
今の蒼紫は、完全にダンスで疲れてる、超健全蒼紫なのに。
オレがバカなんだーわーん。
めちゃくちゃドキドキして、蒼紫の事が見れない。
「――――……悪い、涼」
「……え?」
口元タオルで抑えたまま。
「オレが覚えんの遅いから待たせて」
「――――……」
乱れた前髪から、真剣に。ちょっと悔しそうに、そんな風に言われると。
ドキドキドキドキ。
……オレ、今までこういう時、どう対処してたんだっけ。
あ。分かった。今までは、ひたすら、そういう目でみちゃだめだって、思ってたから。セーブできてたんだ。
今、オレ、そういう目で見て良いんだと思っちゃってるんだ、きっと。
いやいや、でも。今の蒼紫はほんとに真剣なのに。オレのバカ。
「……だ、いじょうぶ……」
何とか答えたら。
腕掴まれて、ぐい、と引かれた。
「何? 怒ってる?」
じっと見つめられて。
ドキドキのせいで。もう。真っ赤になったオレ。
「――――……涼?」
ふ、と蒼紫の瞳が緩んだ。
ああもう。蒼紫は今、変なこと何も考えてないのに。
「どした?」
「――――……ごめん、なんでも、ない。熱い、ね」
もうダンスのせいにしておこうと思った瞬間。
ぐい、と頬にかかった手に引き寄せられて。
ちゅ、とキスされた。
「可愛い顔して、何? 何でもないって」
先生がすぐ戻って来るかもしれないのに。キスなんか、普通にして。
すぐ離れて、クスクス笑ってくる。
「……っ……っっ」
もうほんと。ダメだ。好きすぎて。
抑えるのが、大変。ドキドキしすぎで、心臓が、痛い。
「……蒼紫のダンスは、カッコいいよ。覚えるの遅くもないし」
「――――……ん」
オレを見て、蒼紫は、ふ、と笑む。
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