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第52話◇
「可愛いこと言うのは、全部寮に帰ってからな」
追加で囁かれて、何も言えず、ただ頷く。
そうしよう。
じゃないと、こんな風に囁かれたりして、オレの身が持たない。
……でもファンだからって言う位、別にいいじゃん、と思うんだけどな。
気分転換込みの休憩を終えて戻り、今度は邪念を払って、歌の練習。
今度の新曲も一通り練習して、今日はお開きになった。
「次の練習時間までに、今日言った所、完璧に覚えてきてね」
「分かりました」
「ハモりを綺麗にしたいから、移動の車とか、なんでもいいから、二人で練習してきて」
「はい」
「寮で一緒に住んでるんだっけ?」
「寮の部屋は別ですけど」
蒼紫が答えると、先生は、そりゃそうか、と笑う。
「仕事中ずっと一緒で、帰ってまで一緒に練習したくないかもしれないけど……とりあえず、綺麗にメロディ重ねられるようになるまでは、寮でも練習してきてね」
「分かりました」
二人で同時に頷いて、挨拶と共に部屋を出る。
少しの間、無言。
大分離れてから、どちらからともなく、ふ、と笑った。
「……涼、何笑った?」
「――――……え、だって……」
「帰ってまで一緒にしたくないってやつ?」
「うん。そう。普通はそう思うんだろうなーって思って」
「やっぱり、寮では絡んでないと思われてるみたいだな」
「そだね」
荷物を置いてあるロッカーに、ギターを取りに戻った。
「練習始まるまで、あと十分位あるな」
「智さんに予定通りっておくっておくね?」
「ああ」
椅子に腰かけてスマホを開く。
多分このビルのどこかで、別のお仕事をしてくれてる智さんに、予定通りギターの練習に行けます、と入れた。
と、ほぼ同時に、ドアの所で、鍵のかかる音。
え、とそちらを見ると、もちろん、鍵をかけたのは蒼紫しか居ない。
隣に座った蒼紫に抱き寄せられる。
「――――……」
「あと一時間ちょい。頑張ろうな」
「うん」
「早く帰りたいよなー」
「うん」
ふ、と笑った唇に、蒼紫の唇が触れる。
最初は、触れるだけのキス。
でも、すぐ、舌がオレの唇を舐めた。
「……っっっ」
びく、と震えて、退く。
「っやだやだ、無理」
「――――……分かってるよ」
苦笑いの蒼紫がつまらなそうに言う。
「ヤバい顔の涼、レッスンに連れていけねーしなー」
むぎゅ、と抱き締められる。
「……マジで、早く帰りたい」
なんか、蒼紫の腕の中は。
熱くて。
ドキドキするし。
「――――……とりあえず、オレが頑張れば、早く終わるかな……」
「……ん。そだな。頑張れ」
オレの肩から顔を起こして、クスクス笑って、蒼紫がそんな風に言う。
「オレがギター練習してる時、蒼紫はどうしてるの?」
「見てていいなら見てるけど?」
「じゃあ、居てくれる?」
「ん。いーよ」
ふ、と笑む蒼紫に、オレはありがと、と伝える。
「オレができてないとこ見ててくれる? 後で練習するから教えて?」
「オッケー」
蒼紫が時計を見て、オレをゆっくり離すと、立ち上がって背伸びをしてる。
「あ、でも、途中で飽きたら抜けて休んでていいからね」
そう言うと、ふ、と笑った蒼紫に、よしよし、と頭を撫でられた。
「お前見てるの、飽きないから大丈夫」
ちゅ、と頬にキスされて、そんな風に、囁かれる。
嬉しいけど。
……なんかめちゃくちゃ、恥ずかしいかも……。
「……あ、やっぱり、そんなには見ないでね、軽く見る位で」
そう言ったら、なんだそれ、と笑われてしまった。
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