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第53話◇

 ギターの先生と並んで、一緒に弾いてるのを、蒼紫が正面からずっと見てる。  ――――……だからー、そんなに見ないでって頼んだじゃんかー。  オレここで見てますね、とか先生に言って、真正面に座るとかやめてよー……。  心の声はそんな感じ。  しかもまっすぐ、オレの手元見てられると、もう緊張して。  あ。またミスった。 「すみません……」  言うと、先生は、クスクス笑った。 「なんか今日はミスが多いね。練習してきた?」 「はい……一応したんですけど……」 「ちょっと深呼吸して」 「はい……」  すー、はー、すーはー。してると、蒼紫が、なんか微笑んでるし。  やめて、その、見守ってる的な顔……。ほんと恥ずかしいから。 「続ける?」  先生に頷きかけて、オレは、「蒼紫、ちょっと、真正面から見るのやめて」と言ったら、横で先生が笑い出した。 「蒼紫に見られてると緊張しちゃう?」 「……」  複雑な思いをしながらも頷くと、先生は蒼紫の方を見た。 「涼が緊張するって。可愛いから、退いててあげて?」 「……はーい」  蒼紫も、なんだかニヤニヤしながら、立ち上がって、椅子と共に脇へ移動。 「あとでミスったとこ教えてっていうから、見てたんですけど」 「まあまあ、緊張するみたいだから」  蒼紫と先生が笑いながら話してて、ちょっといたたまれない。  その後は、蒼紫が視界から居なくなったことで、大分楽になって、順調にレッスンが進んで、予定時間を少しオーバーした位の所で、終わりになった。 「涼は、蒼紫の視線には弱いんだね」  先生にクスクス笑われる。 「まあいつもは横に居るから、見られることもないかな」 「……まあ……」  苦笑いで頷くと、蒼紫が横で可笑しそうにオレを見てる。 「とりあえず今日ミスってたとこ、よく練習しといて。蒼紫、寮で少し見てあげて」 「分かりました」 「じゃあ今日はこれで」  先生の言葉に、ありがとうございましたとお礼を言って、部屋を出る。  なんとなく黙ったまま、ロッカーに向かって歩いていると、蒼紫が隣で電話をかけ始めた。 「あ、智さん? 全部終わったので、ロッカー行ってから、下行きます」  蒼紫が智さんと話して、電話を切った所で、ロッカーについた。中に入ると、蒼紫が鍵をかける。  何で鍵?と思った瞬間。腕を掴まれて引き寄せられて。  至近距離で見つめられる。 「――――……見られると、緊張すんの?」 「――――……」  蒼紫の瞳が、オレをまっすぐ捉える。  色っぽい瞳で、優しく見てくる蒼紫。ドキドキして。もう。ほんと困る。 「……人前でそんな可愛いと、困るんだけど」 「――――……」 「キスしたいの、すげえ我慢したからさ」 「――――……」 「して良い?」  心臓、バクバクすぎて、死にそうだけど。  少しなら、と頷くと。 「……一応、少しにする」  ふ、と笑んで、そう囁いた蒼紫の唇が、重なってきて、瞳を伏せたと同時に、ぐい、と抱き寄せられて。――――……深く口づけられた。

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