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第54話◇少しだけ?
「……ん、ン……っ――――……ふ……」
ぜ……全然、少しじゃ、ない、と思うんだけど……。
「……ん、ぅ……」
舌が奪われて吸われると、くぐもった声が漏れてしまう。
「あお――――……」
出しかけた声を、まるで、黙ってろ、というかのように塞がれて。
少し離れようとすると、蒼紫の手が、頭の後ろに回って、ぐい、と蒼紫に押し付けられるみたいで。
「……っん、ん…………っ」
涙が瞳に滲んで、ぎゅ、とつむると、零れ落ちる。
「……っ……ふ……」
吸われた舌を戻されて、今度は、蒼紫の舌を受け入れる。
たかが、キス、といえば、そうなのに。
もう、いきなり頭は真っ白で、くらくら、する。
「……ン、ぁ……っ!」
不意に、背中をすう、と滑った指に、大げさなくらい大きく震えて、オレは、声を出した。開いた口にまたキスされて、ゾクゾクして、震えると。そっと、唇が少し離された。
「……なんでそんなエロいの……」
とんでもないこと言われて、よく見えない目を見開いて、上からオレを見つめてる蒼紫を、睨んでしまう。
……涙で、よく見えないけど。
「――――……はー……」
なぜか蒼紫がため息をつく。
……何で。ため息つきたいの、オレだし!
「蒼紫が、こんなの、するからじゃん……」
「涼が悪いんだよ。……可愛いんだもんな……」
蒼紫の指に涙を拭われて、視界がはっきりする。
蒼紫がまた、男っぽい顔になってしまってるのを見ると、余計、エロイとか言われてるのも、恥ずかしくなってくる。
「……ちょっと、て、言ったのに、さ」
「――――……あー……うん。オレやっぱ、外では我慢する」
ん? と蒼紫を見上げると。
「もう、なんか、可愛すぎて……」
「――――……」
「少しにするとか、無理だわ」
ぎゅー、と蒼紫の腕の中に抱き締められてしまう。
……ま、また。めちゃくちゃ恥ずかしいこと、普通に言ってくれちゃってるけど……もー、蒼紫ってば……。
「今止めたのも、褒めろよ」
いまの褒めるの?? どこを??
「……ここで止めれるオレって、すごいと思うんだけど」
「――――……そ……そうなの?」
「そうだろ。もーなんなのお前……」
急に両頬を挟まれて、優しく引かれて、ちゅ、とキスされる。
すぐ離れるのかと思いきや、舌、が……。
「んっ……もー、蒼紫……って」
じたばた暴れて、唇から離れると。
「……はーもう無理……早く帰ろ、早く帰って、思う存分しよ」
「えええ……ごはん食べないと。練習しないと……」
「練習は明日しよ」
「……ごはんは?」
「ご飯だけはしょうがないからいいよ。……腹減ったしな」
仏頂面の蒼紫に、なんだかひたすら、スリスリと撫でられる。
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