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第55話◇初めて知ること
「遅かったね。連絡しようかと思ってたとこだったよ」
智さんの車に乗り込むとそう言われて。
言葉に詰まっていると、蒼紫がしれっと「そんな遅かったです?」とか言ってる。
……絶対遅かったよ、だって、カバン出してロッカーから出ればよかっただけのところを、キスした後にハグタイムになってたんだし。
絶対絶対遅かったって。もう。
しれっと、言ってるけどーもうー-!
車が動き出して、シートベルトを締めた蒼紫が、「智さん」と呼んだ。
「週末のロケって、何? ロケ自体珍しいし、泊まりって……?」
蒼紫がそう言うと、智さんが、あぁ、それね、と笑った。
「僕もまだ内容ちゃんと聞いてないんだけど、社長からの話でね。金曜の夜ホテルに泊まって、土曜は早朝からロケなんだって」
「なんのロケか聞いてないの?」
「そういえばそうだね。聞いとくね」
「お願いします」
蒼紫が話し終えて、それから。
「あ、智さん」
「ん?」
「あのさ、仕事で泊まるとかなった時なんだけど」
「うん?」
「オレと涼、同室でいいから」
そう言ったら、しばらくの間、智さんが黙る。
「えーと……ちょっと待ってね」
少しして、信号で止まってから、智さんが後ろを振り返った。
「今まで一人が良いって言ってたのは蒼紫だけど……良いの?」
「うん」
「涼は良いの?」
智さんが、蒼紫から、オレに視線を移す。
「蒼紫がいいならオレはもともと一緒で良かったし。一人ってさみしいし」
ほんとにそう思ってることだけ伝えた。
噓は苦手で、ついてると、後で困るから、ほんとのことだけ言うように。
オレを見ながらそれを聞いていた智さんは、分かった、と言いながらまた前を向いて、少しして車を発進させた。
「二人がいいならそうするね。金曜のも一緒でいいの?」
「はい」
「了解。――――……なんか二人、ますます仲良くなった?」
智さんに、クスクス笑いながらそう言われる。
オレは内心ドキドキで、とっさに答えられなかったのだけれど。
「ずっと仲良いですよ」
蒼紫がクスクス笑いながらそんなことを言ってる。
……まあもちろん、そこそこ仲は良かったけど。
仲が悪かった、とか、そんなだった時は今までなかったけど。
最近の蒼紫は、外にばかり行ってたし、休みの日も寮には居なかったし。
仕事の後、寮に帰ってからも、二人きりになる、とかは避けられていて、行き来することも、なくなってたし。
今思うと、大分避けられていたんだろうなあとは思う。
それもこれも、オレのこと、好きだから、とか……。
……嘘みたいだけど。
ちら、と隣の蒼紫を見ると。
すぐに気付いて視線を合わせて、蒼紫がにっこり笑う。
少し動いてオレの手を取ると、オレと蒼紫の間にある荷物の下で、手を繋がれた。
「――――……」
……蒼紫って。
こういう風にずっと触ってたい、みたいな人なんだなあ……。
ずっとずっと一緒に生きてきたけど、最近初めて、知ることが、いくつもある。
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