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第56話◇絶対大丈夫

 食堂でご飯を食べてから、いったん自室に戻った。  シャワーを浴びて、髪を乾かして、明日の準備。  それを終えたら――――……蒼紫の部屋に行く。  早く来いよって、言われたから、全部急いだ。  コンコンとノック。「開いてる」と蒼紫の声。  ドアを開けると、すぐ近くに蒼紫が来てて、オレが入ると、鍵が閉められて、抱き締められた。 「涼」  蒼紫もお風呂あがりみたいで。  暖かいし、良い匂いがするし。  きゅ、と抱きつくと、蒼紫が少し笑う気配。 「――――……風呂上り、ほんと可愛い……」  クスクス笑う蒼紫に見下ろされる。 「蒼紫はまだ髪、乾かしてない?」 「タオルで拭いただけ。冷たい?」  見上げると、髪が濡れてるせいでいつもより少し長めに、顔にかかってる。    う……。  ……何でこんなにカッコいいかな。 「冷たくないけど……」 「ん。けど?」 「……いつもと違くって」 「うん」 「……またなんか、カッコいい」 「――――……そう??」  蒼紫がまた瞳を細めてオレを見下ろして。  少しかがんで近づいてきて――――……。 「……」  そっと、唇が触れ合う。  優しいキス。   「……練習、したい?」 「…………ギター貸してくれる?」 「……したいの?」 「したいー」 「どうしてもしたい?」 「したい」  むむむ、と面白い顔でオレを見て、蒼紫が何回も聞いてきたけれど。 「分かった、じゃあ一回でうまく弾いて?」 「プレッシャーだよう……」 「頑張れ。それが終わったら、ベッド入ろ」 「……緊張して無理」 「え、何でだよ。頑張れよ」  クスクス笑いながら、蒼紫がオレの頭をくしゃくしゃと撫でて。  ちゅ、と頬にキスされる。 「蒼紫、オレのこと見ないでね?」  ギターを渡されながら、そう言うと、蒼紫はオレを見て、苦笑い。 「なんか、オレに見られるのダメになった?」 「――――……わかんない。なんか……照れちゃって」 「……オレが、涼のこと好きだと思って、見てるって知ったから?」  クスクス笑いながら蒼紫がそんな風に聞いてくる。  ……そうなんだろうか。それで、恥ずかしいのかな、としばらく考えるけれど。 「……ほんとにそうかもしれない……なんかすっごく、恥ずかしい」 「――――……ほんと……可愛すぎるんだけど、お前」  よしよし、と撫でてから、蒼紫は少しオレから離れて、ベッドに腰かけた。 「涼は向こう見て弾いていいよ」 「あ、うん」  机の椅子を借りて腰かけて、弾き始める。  蒼紫の視線を感じなかったから、わりとうまく弾けてたんだけど……。 「あ」  また同じところで、ミスった。  ここが、どうしても苦手。 「ゆっくり弾いてみな?」 「うん」  後ろから蒼紫がそう言うので、ゆっくり、弾いてみる。 「弾けるだろ?」 「うん」 「少し速めて、落ち着いて。大丈夫、弾けるから」 「うん」  ――――……大丈夫。  これは昔から蒼紫が良く言ってくれてた言葉。  ……絶対歌手なんて無理だーって言ってた時も、よく言ってたなあ。  少し笑ってしまいながら、弾いていたら。  ――――……普通の速さでも、あっさり弾けた。 「間違えるとか思ってるから引っかかるんだよ。絶対弾けるから、大丈夫」  振り返ると、蒼紫がそんな風に言って、笑ってくれる。 「もっかい最初から弾いてみるね」 「おう」  蒼紫が笑顔で頷いてくれるので、もう一度最初から頑張ることにして、ギターを持ち直した。

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