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第63話◇ファン
◇ ◇ ◇ ◇
翌朝。蒼紫の腕の中で目覚めた。
まだ目覚ましが鳴ってないので、動かないように、目の前の顔をただ見つめる。……寝てるだけで、こんなにカッコイイのは、ほんとすごいなあと思ってしまう。朝から刺激、つよい……。
全国に蒼紫にときめいてる子って、どれくらい居るんだろうな。
……見せてあげたいなぁ、寝てる、蒼紫。
蒼紫に心酔してる子とかなら、気絶しちゃうかもなぁ、なんて思って、自分の考えたことが面白くて、ふ、と少し笑ってしまって、本当に少しだけ動いたその瞬間、蒼紫が小さく動いた。え、嘘、と思ったら。
「……涼……?」
オレを呼んで、ふ、とこっちを見る。
敏感すぎでしょ。蒼紫って、いつもこんななのかな。ちょっとびっくりする。
「……はよ、涼」
きゅ、と抱き締められて、蒼紫の胸の筋肉に触れるとめちゃくちゃドキドキするのに、更に耳元で囁く、まだ少し掠れてるみたいな、声。
朝から心臓がヤバい音を立ててるんだけど……と思っていたら、蒼紫が、ふ、と笑った。
「涼、心臓、ドキドキしてる……?」
「……してる」
ごまかしてもしょうがないと思って苦笑しながら言うと、蒼紫はクスクス笑った。
ちょっと寝起きの感じで、こんな風に柔らかく笑ってるところも、蒼紫のファンの子に、見せてあげたい。ほんと、ヤバいくらい、カッコいいし、可愛くもあると思う。
「オレも、してるから。音、聞いてみ?」
「……ほんとだ」
胸に耳を当てて、そのまま、蒼紫の胸のところで、息をついた。
―――なんかほんと……こんな朝が来るなんて、嘘みたい。そう思ってると、蒼紫が言った。
「なんか、こんなの、夢みたいな気がする」
「……こんなのって?」
「朝起きたら、涼が居て、こんな風に触ることが出来てる、とか」
「触ることが出来てるって、変な言い方……」
クスクス笑ってしまいながら、ふ、と蒼紫を見上げると、蒼紫の綺麗な瞳と視線がぶつかる。
「オレ、お前のファンだからな……涼オタクといっても過言ではないし」
……こんな朝も早くから、このスーパーイケメンは、何を言ってるんだろうか。言われていることについていけず、ぼー、と蒼紫を見つめていると。
「だから、なんか……全部がもう、貴重っていうか。寝起きに涼がいる、とか。大金払ってもいいなーと今、本気で思った……」
「――――……」
瞬きパチパチ。
……じっと蒼紫を見つめる。
「えーと……お金、払ってもいいの?」
「そだな。「寝起きに涼がいる券」みたいなの、売り出したら、買いたい奴は山ほどいるだろうけど……でも、オレが競り落とす、みたいな気分だなぁ……」
「寝起きに涼が居る券ってなに?」
まだいつもよりものんびりした口調で、変なこと言ってる蒼紫のことが、もう、なんだか可笑しくてしょうがない。
「ていうか、それさ、『寝起きに蒼紫がいる券』の方が売れると思う」
「はー? 寝ぼけてるだけだけど? 売れないよ」
「そんなことないよ」
寝てるだけで尊いし。蒼紫の寝起き、強烈だもんね。まぁ、ちょっと寝ぼけた感じで喋ってるのも……すごく可愛いし。
「オレのなんかいらねーよ」
「そりゃ、蒼紫はいらないだろうけど。ていうかあれだね、蒼紫のそのチケットが売り出されたら、怖いくらい値上がりしそう」
「涼のは、どんだけ値上がりしてもオレが競り落とす」
「……えーと……」
――両想いって分かってからの蒼紫は、たくさん好きって言ってくれるし、前からずっと好きだったっていうのも聞いたし。
蒼紫がオレのことを好きって思ってくれていることは、少しずつ、実感はしているのだけれど。
「蒼紫がオレのファンっていうのは、ほんとなの?」
「ん? ほんとだけど?」
「……」
「つか、オレ、涼しか推してないし」
当然だろ、みたいな顔をしているけど……なんかもう不思議すぎて。なんて返事しよ、と思っていた時、枕元のスマホのアラームが鳴った。手を伸ばして止めてから、オレは蒼紫にくっついて、その腕の中に埋まった。
「んー……じゃあ今日も――蒼紫の為にも、お仕事、頑張ろうかな」
そう言うと、蒼紫はクスッと笑って、オレを少し離すと、額にキスをした。
「オレの為だけに、じゃねえの?」
「そこは……ファンの子のために、もあるかな」
「――――まぁ、そこは、そっか」
ちょっと黙ってからそう言うと、蒼紫は少し唇の端をあげてニヤ、と笑う。
「真面目だよなー涼……じゃあ、オレも、ファンの子の為と――でも最大限、涼の為に、がんばろっかな」
「ふふ。うん。がんばろ?」
頷きながら起き上がると、何だかすごく嬉しそうに笑って、もう一度、オレを、ぎゅう、と抱き締めた。
「昨日話した通り、帰るまで、キスとかは我慢するから」
「……うん。ありがと」
「帰ったら、な? あ、あと、これ、最後」
言いながら、ちゅ、とキスしてくる蒼紫。重ねられた唇に、口元が綻んだ。
(2025/5/24)
ずっと。気になっていたのでぼちぼち再開。
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