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第64話◇仲良く
朝食後、迎えにきてくれた智さんの車で、仕事先に向かう。
「あ、智さん、ロケの内容分かった?」
「ああ、うん。食べ歩き、だって」
「えっ食べ歩き?」
後部座席で並んでる蒼紫と、顔を見合わせてしまう。
「食べるのは好きだけど、食べて感想とか、言えるかなあ」
「涼は出来るだろうけど、オレ、うまいかまずいしか言えないけど」
「――うわー。蒼紫ってば、それっぽい……」
あは、と笑いそうになったけれど、ふっと、気づいて笑うどころじゃなくなった。
「えっ蒼紫がそれだと、オレがメインの食べ歩きのロケー?!」
「あー……はは。そうかもね」
智さんの、ちょっと困ったような笑いを聞きながら、ちょっと想像してみる。おいしいもの食べるのは嬉しいけど、オレだって、そんな、食べ物を説明するなんてやったことないし、なんか自分が必死でよくわかんない話をしてる横で、モグモグ食べた蒼紫が「うまいな」とか一言で終わらせてる光景が、目に浮かぶ。
「え、なんでオレ達に、そんな仕事が……?」
「うーん……何でだろうね、社長から回ってきたから……あれじゃないかな、色んな仕事を試してみたいって話じゃない?」
運転しながら、智さんがそんな風に言うけれど、また、オレは蒼紫と見つめ合って、ちょっと眉を寄せた。
……うう。無理無理。無理だってば。
「智さん、無理な光景しか浮かばないんですけど……」
「はは。そうだねぇ……」
智さんも、笑いながら頷いて、否定はしてくれない。まあ、そうだよねオレ達のこと、よく分かってる智さんだし。否定、出来ないよね。
「まあでも、多少は打ち合わせしてからロケするだろうし、言いたいことも、ちょっと考えてからでもいいだろうし。初ロケって言って、緩くやってもらえるように調整するからさ」
「……お願いします」
オレがお願いしてるのを、蒼紫は横で、まるで自分に関係ないみたいな顔して、クスクス笑ってて。どう見ても、オレを面白がってる。
「ていうか、そんな関係なさそうな顔してるけど、蒼紫だってやるんだから!」
「まあ涼がお店の人と話して、きっとどうにかすると思ってるし」
「そんな、オレに全部任せないでよー無理―!」
「いや、行けるって」
「やだやだ、絶対、無理だから」
「カメラを意識しなければ、涼はずーっと喋ってられそうだし」
面白そうに笑う蒼紫に、無理、と言おうとしていたら、前で智さんがあはは、と笑い出した。
「確かに。涼ならずっとしゃべってそう。いいんじゃない、それで」
「……っ智さんまで……」
むむ、と黙っていると、ふふ、と智さんが笑った。
「そうだ、ホテルなんだけど――ほんとに同じ部屋で予約したけど、良かった?」
「はい」
蒼紫が速攻で返事をしている。ぱっと蒼紫を見ると、ふ、と瞳を細めて見つめてくる。
「――……っ」
もう、ほんと良くない、その視線。オレが、どれだけ好きか、絶対分かってないんだよね。その、蒼紫が瞳を細める感じにさ、全国のファンがどれだけキャーキャーいってるかも、ぜったい分かってないんだよ……ほんと、強烈なんだから……。
オレがドキドキしちゃうのを、心の中で蒼紫のせいにしていると、蒼紫は、なんだかおかしそうにクスクス笑う。
「なんで笑うの?」
「なんか涼がすごく不満げだから。おもしろくて」
「別に不満なわけじゃないけど」
強烈にカッコいいって思ってるだけだし。心の中で、褒めてるだけなのでは、とも思うけどさ。
「良かった」
不意に、そんな智さんの声。何がですか? と咄嗟に聞いたオレを、智さんがバックミラー越しにチラッと見た。
「二人、前みたいに仲良く見えるから」
「――仲……悪く見えてました?」
蒼紫が、ちょっと真面目な顔しながら質問をしてるのを横目に、智さんの返事を待っていると。
「いや、仲悪くはないんだけど……ほら、蒼紫が涼を連れてきたとこから見てるから。その頃に比べたらちょっと距離があるように見えてて……まあ、ちょっと大人になってるってことなのかなーと思ってた程度なんだけど」
そんな言葉に、ちょっと考えてしまう。
智さんは、ほんと鋭い。
気を付けないと、いつか。バレそうな気がする。
(2025/5/26)
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