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第1話:やっぱムリッ!***(4)
記憶を辿ればブルターニュ伯爵家で見た肖像画が脳裏に過ぎった。
ユーリアン・ヴァレンティーン・セオドール
そもそもオレが女装してここに来る羽目になった相手!
「堅物王子!」
「堅物? それって俺のこと?」
あ、やばっ!
さすがに王子に向かって『堅物』はない。
褒め言葉じゃないし。
思ったことがすぐ口に出るのはオレの悪いクセだ。
侮辱罪で打ち首とか!?
恐る恐る目の前の王子を見ると――。
怒るどころか、肩を振るわせて笑っていた。
「怒ら、ない、の?」
「いいよ、当たってるから」
なんだろ。格好いいと得するな。
クツクツと肩を振るわせて笑う姿が様になってる。
だけどそれだけじゃなくて……。
低く笑う声音が心地好い。
季節は春。いくら日差しがあたたかくなったとはいえ、夜はまだ寒い。
だからかな。王子の体温があたたかいと感じる。
不思議。オレ、今女装してるのに。
王子の腕が背中に回ってても平気なんだ。
何より上流階級の奴らは奴隷みたいに見下してくる奴ばかり。誰もオレを同じ人間として見てくれない。
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