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第8話 エメラルド

「では後日事務所で」 かほるさんは軽く会釈すると、ハジメさんを引きずりながら街に消えていった。 完全に姿が見えなくなったことを確認して、 探偵に頭を下げる。 「すみません、ありがとうございました!!!」 「…こちらこそ巻き込んでしまってすみませんでした。」 探偵は僕のことを少しじっ…、と見つめた後深々と頭を下げる。 「もう、遅いですし送りますよ」 「い、いいえ……電車で帰ります!!!それでは失礼します!!!!」 俺は、一刻も早く帰ることにした。 さすがに住所を知られるのはやばい。 他の人と遊ぶことも考えたが、あんな修羅場に巻き込まれて、その気じゃなくなってしまった。 本当であればホテルで一泊する予定だったが、終電で家に帰るしかない。 時計を見れば、もう22時だった。 今駅に向かえば間に合う。 とにかく、この場から離れなきゃ。 「ちょっと待ってください」 そんな思いも虚しく、探偵に引き留められてしまった。 「……まだ、何か」 まるで刑事ドラマの容疑者みたいな気分だ。 うう、無視すれば良かった。 早く家に帰りたい。 探偵は俺に疑いの表情を向ける。 「あなた、まさか今から他の人と遊ぼうなんて思ってないですよね?!」 「はぁ!!?」 予想外の疑いをかけられた。 ……お前は一体何を言っているんだ!? 気味が悪くなり、そのまま無視して駅の方向へ向かうがその後を彼が着いてくる。 「あ、ちょっと、ダメですよ!!遅いですから帰りましょ!!」 「今から帰るんだよ!!!!!」 「本当ですか~???そっちの方向は飲み屋とか多いですよ~???」 「こっち行った方が駅に近いんです!!!!!」 「て、言いながら結局遊びに行くんでしょ~!?」 「だからもう家に帰るってば!!!!!!!」 し、しつこい!!!!! 何とか振りきりたいけど終電に間に合わなくなる。 「ていうかあなたって」 「何!!!!!!!!!!!」 「…あなたいつもそういう格好してるんですね。全然違うから一瞬分からなかったですよ」 「そうだけd…は?」 今コイツなんて言った? 思わず立ち止まってしまった。 「…アンタ誰?どっかで会った?」 記憶が正しければ、探偵の知り合いなんて1人も居ない。 …初めて会った気はしないが、思い出せない。 「…その調子だと本当に僕が分からないみたいですね」 少し困惑気味に言うと、探偵はズィッと俺に顔を近づけた。 ち、近い。 あまりに突然のことで、無意識に息が止まる。 どのくらい近いかって、………あともう3cm近づいたら、キスできるくらい。 「…一昨日はご利用ありがとうございました♪」 耳元で囁くと、彼はかけていた眼鏡を少しずらす。 緑色の、宝石みたいな目がネオンの光を受けてキラキラ光っている。 3秒後、全てを理解した俺は彼を指差し絶叫した。 驚き過ぎて言葉になっていなかった。 「け、けいたん……!!!!?!?」 「そうですよ~」 探偵:品川桂太郎、こと、占い師けいたんはにこやかに答える。 「ふふ、偶然とはいえ、やっぱり気づいてなかったみたいですね~あはは」 そう言って、眼鏡をハンカチでふきながら和やかに笑う。 …若干俺のこと、馬鹿にしてるなこれ。 考えてみれば、だ。 声も話し方も全部コイツじゃん!!!! 顔が分からなかったとはいえ、全然気づかなかったよ!!!!!!! 混乱した俺を他所に、けいたんは少し不機嫌そうに言う。 「それはそうと、僕の言ったこと早速守ってないじゃないですか~!!」 「え…なんだっけ」 「もう、忘れたんですか!?言ったじゃないですか~…『sexしちゃいけない』って」 ああ、そう言えばそんなこと言われたっけ。 「あ~……でも今日は結局なんもしなくて済んだし」 「でもsexしようとしたでしょ!!!!!!」 「でかい声で言うな!!!!!!」 行き交う人がこっち見てクスクス笑っている。 ……もう、死にたい。 けいたんもそれに気づいたようで、わざとらしく咳払いをした。 「…とにかく、あなたは今後sexしちゃいけないんです。というか無理です」 「無理ってどういうことだよ。」 「その様子だと途中から聞いてなかったんですね…」 けいたんは一瞬がっかりして、気を取り直して説明を始めた。 「…いいですか、真藤さんはこの一年、恋愛運をチャージする時期に入ってるんです。 あなたの場合、この時期に無理やり『sex』しようとすると、運を無駄遣いしないように、何かしらの邪魔が入る運命になってるんですよ!」 「え、てことはつまり…」 「あなたはこの一年sexできません!」 きっぱりと断言した。 「あ、あれ、真藤さん?おーい」 「………」 俺は少し立ち尽くしたあと、ぐるっと方向転換をして歩き始める。 「真藤さん、どこ行くんです?」 「駅」 「駅とは反対方向ですよ~あと、もう電車ないですよ~」 「知ってる」 「遊びに行くとかダメですよ!?」 「うるさい!!!!お前のその胡散臭い占いなんて信じられっかての!!!!」 「え、えっちはダメですよ!!……シオン君!!!!!」 「はぁ!?」 下の名前で呼ばれて、思わず赤くなった。 昔から女みたいで呼ばれると恥ずかしくなる。 「な、名前で呼ぶなぁ!!!!!!」 そう言って彼から逃げるようにダッシュする。 ……数分後、結局彼に捕まり、強制的に家に送り返された。 とにかく、絶対に占いなんて信じないからーーーー!!!!!!!!!

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