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第2話

「……怒ってる?」  さすがに沈黙に耐え切れずに声をかけたのは、店を出てからだいぶ時間が経った後のこと。  俺の手首を握ったまま歩き続けて、足を止めたのは公園らしき場所のベンチを見つけてから。  刹那くんがそこに座ったから、俺も半人分空けて腰を下ろした。  そして組んだ足の上に頬杖をついてむっつりとした顔で黙っている刹那くんに恐る恐る問う。この場合、やっぱり原因は俺だろう。 「俺がみんなの前で『好き』って言ったから?」 「お前さ、そういうのずっと言われてる俺の気持ちになったことあんの?」  十中八九このことだろうといつもの文言を口に出したら、少々予想とは違う返し方をされた。  普通に怒られるのとは違う、静かな詰問口調。  人気のない公園だからか、刹那くんの声はとても静かに響く。 「たとえばさ、お前が誰かにずっと想い続けられたらどう思う?」 「え……好きになっちゃう?」  なんとなくいつもと感じが違う。これはもしや、本格的に嫌われる前触れなのだろうか。いい加減、俺の言動が鬱陶しいと、本気でやめさせる気なのだろうか。  そんな雰囲気に持っていきたくなくて、わざと茶化した答えで笑ってみせる。  だけど刹那くんは笑うでもなくじっと俺を見つめてきて、慌てて言葉を繕った。 「ごめん調子乗っ……」  けれど。  焦って謝る言葉が遮られた。不意打ちで唇を塞がれ、続こうとした言葉が喉の奥へと落ちる。  一瞬なにが起こっているのかわからなくて、近すぎる距離から刹那くんの顔が離れたのを見てやっと、俺の言葉を奪ったのが刹那くんの唇だと気づいた。 「……え?」 「半分正解」  ほんの少し湿った唇に触れて、刹那くんを見返す。一体なにが起こってる? 「正解は、自分の気持ちに嫌でも気づかされる、だ」 「自分の、気持ち?」 「むかつくんだよ。お前の視線がいつもこっちに向いてないと」  自分は俺から視線を外して、悪態をつくように語る刹那くん。 「俺以外の奴を見られると、そっちに今までの『好き』が向かうんじゃないかとイライラすんの」  そっぽを向いたまま俺に対する文句を口にする刹那くんは、なんというか拗ねているみたいな顔をしている。それをぼーっと見ていることしかできない。 「顔見りゃバカみたいに『好き』『好き』言いやがって。もうちょっと他の手使えよ。なんでずっと一直線なんだよ。危なっかしんだよなにもかも」  口をついて出てくるのは文句ばかりなのに、こっちを見て手を伸ばしてきた刹那くんは勢いに任せるようにして俺を抱き締めた。突然引き寄せられて、倒れるように刹那くんの体に飛び込む。 「……俺以外の誰が守れんだよ。お前みたいなバカ」  子供の時とは違う、しっかりした男らしい体。俺が倒れ掛かったくらいじゃ揺らがない頼もしさに、今さら心臓がとんでもない速さで鳴り始める。 「あの、それって……」 「バーカ。俺も好きだって言ってんだよ。お前が散々言ってた気持ちと同じ意味。すぐわかれ」  嘘だろう。これって、告白だ。  刹那くんが、俺のことを好きだって。  信じられない言葉を、聞き間違えできない距離で告げられ、意識する前にぶわっと涙が溢れだした。そのせいで肩が濡れたからか、それとも泣き声を洩らしてしまったからか、刹那くんは体を離して呆れたように俺の涙を拭った。 「泣くなよ。俺が泣かしたみたいだろ」 「刹那くんが泣かしたんだよ!」 「……そうか。俺か。……びっくりしたか?」 「だって、急にそんなの……」 「悪かったな。他の男と喋ってんの見てむかついたんだよ」  涙を拭ってくれる指も男らしくてかっこよくて、それでまた泣き出してしまったら困った顔で頭を撫でられた。  手の大きさはすっかり大人になっているのに、撫でる優しさは変わっていなくてまた涙が溢れだす。  しょうがないじゃないか。気づいたら好きだった人に、突然とんでもなく嬉しい言葉をもらったんだ。泣きもする。  しばらくなだめるように俺の頭を撫でていた刹那くんだったけれど、一向に泣き止まないのが面倒になったのか俺の頭を引き寄せ胸を貸してくれた。手つきは雑でもやっぱり優しい人だ。

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