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第4話
それから、一騎と琉衣は図書館で頻繁に会うようになった。
本好きなもの同士今まで読んだ本の話をしたり身の回りのことを話したり、筆談を交わしていたらあっという間に時間は過ぎていく。
今までは見た目のイメージを崩さないよう毎日気を張っていたが琉衣と一緒にいると、ありのままの自分でいられた。
ところがある日。
いつものように図書館に向かうと、琉衣のそばに誰かがいた。
渡辺だ。
にやにやとしながら琉衣を見下ろす渡辺の顔に嫌な予感がして一騎はすぐに駆け寄った。
「あイッキー。ね、イッキーのお友だち耳聞こえないんだって?でもさ聞こえないって逆に便利じゃね?さっきから近くで悪口言ってんだけどさ、首傾げてんの。笑える」
「お前…!!」
カッと頭に血が上る。
腹の底から込み上げてくる怒りはたちまち一騎を飲み込み、気づいたら渡辺に殴りかかっていた。
騒然とする館内。
揉み合う一騎と渡辺は駆けつけた大人たちに引き剥がされた。
渡辺は腑に落ちない表情で舌打ちをすると帰っていった。
なぜ殴られたのか理由がわからなかったらしい。
それが腹立たしくもあり、またショックでもあった。
渡辺にやり返され、腫れてしまった一騎の頬を痛々しい表情で琉衣が見つめてくる。
本当に傷ついたのは一騎じゃない、琉衣の方なのに。
琉衣はいつもの筆談ノートを取り出すと、一番最初のページを開いた。
『よくあることだから』
指差した文字は滲んでいる。
一度濡れて乾いたかのように。
弱々しく微笑む琉衣を前に泣きたくなった。
聞こえなくても琉衣は渡辺が何を言っていたのかわかっていたのだ。
彼の抱えているものは計り知れないほど大きくて重いことに気づく。
きっと何度もこんな風に傷ついてきたのだろう。
守りたい…
一騎にはどうしてあげることもできないが、琉衣を守りたいと強く思った。
渡辺の一件と、遊びの誘いに乗らなくなったチャラ男の一騎に、それまでそばにいた人間たちはたちまち離れていった。
だが、それを悲しいと思ったりは全くしなかった。
重い鎧を脱ぎ、本来の自分でいられることの方がよっぽどいいことに気づいたからだ。
それは紛れもなく琉衣との出会いのおかげだ。
そして、琉衣は今や一騎にとってかけがえのない存在へと変わっている。
大切にしたい。
守りたい。
生まれて初めてそう思った相手。
これから何が起こるかわからないが、寄り添って生きていきたいと思っている。
そして今日、その想いを告白しようと決めていた。
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