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秋され 4
鈴口から盛り上がった一滴を塗り込めるようにして先端を撫で擦る。かりかりと爪でひっかくと内腿がさざめいた。足の指が丸まったり、ぴんと伸びたり、全身で快楽を放出している。もう片手で、半分皮のかぶったそれ手首を回すようにしてして下から上へと扱き上げる。
「それっ、あ、んんっ、もうやめっ、やだ、あっ、だめ、出る、でるっ!」
彼のしなやかな若い足が空を蹴る。喉を反らして、柔らかな黒髪が僕の耳をくすぐる。
「え~、早くない? 擦っただけだよ」
「そんなこっ、言ったって……っ! やっ、も、ひぁっ……!」
指の間から濃い精液が溢れた。こぷ、と少しずつ何回にも分けて出している間にも手を動かし続けると、前かがみになって僕の手を弱々しくひっかき、無駄なあがきと分かると大人しくまた凭れかかってきた。
「あ、はぁっ、はぅ、もう、……」
汗に濡れた髪が頬に張り付いていて、白い肌とのくっきりとした対比にくらくらした。両手は汚れてしまっているので、鼻を擦り付けて頬に張り付いた髪をずらした。くちづけた頬は濡れている。涙か、汗か。
「はは、魔騎士様は早漏なんだね。たったこれだけですーぐイッちゃって」
「うっ、こ、これは……。あ、我は魔騎士じゃなくて黒騎士……っ!」
もう一滴も絞り出せない事を確認すると、僕はコクヨーくんごとベッドに倒れ込んだ。射精後の倦怠感に身を委ねているのか彼も嫌がる素振りを見せない。意外と懐いたなあと、破顔しながら細い首筋を食んだ。
「なに、を……」
「んー? ああ、僕もその、アレだから。ここは一つ、魔騎士様の偉大なる手を使わせてもらおうかと」
スラックスの前を開けて陰茎を露わにすると、魔騎士ではないと吠えていたコクヨーくんの顔があからさまに曇った。眉尻を下げ、おどおどと僕の顔と股間とを見比べる。
「だいじょうぶ。本当に、手を借りるだけだから」
「え、手って……?」
疑問を遮り、戸惑うコクヨーくんの手を優しく掴むと、自身を握らせて緩く上下に擦った。驚いて手を引きかけるが、そうはさせない。ぐっと体ごと引き寄せ、耳に息を吹き込んだ。
「ね、そのまんまの意味でしょ? もうちょっと、だから、少し、おねがい」
そのまま有無を言わさず無理やり扱き続けていると、さっきまで痴態を目の当たりにしていたせいか、いつもよりはるかに早く達してしまった。僕も彼の早漏っぷりを馬鹿にはできない。コクヨーくんは僕の精液が付着したままのてのひらを呆けたように握ったり開いたりした後、はっと我に返って顔を赤らめた。その様子に思わず笑ってしまい、それを隠すようにベッドサイドの化粧棚からティッシュを箱ごと引き寄せてぬるつく手を拭いてやった。
「疲れたでしょ。延長するから寝てもいいよ。もう何もしないから。僕も寝るし」
抱きしめたままだった体を離し、僕はふあ、とあくびを漏らした。その言葉がよほど意外だったのか、コクヨーくんは困惑したように何かを言いかけては止めてしまう。僕はそれを黙って眺めている。彼の赤い眦に惹き付けられていた。
「でも……」
じっと見つめられている事が居たたまれないのか目を逸らされる。
「門限があるとか? 少し遅くなるって言っておきなよ。近くまで車で送ってあげるよ。あ、それより帰りたいか」
何も言わない少年を横目で確認しながら、備え付けの電話でフロントのナンバーをプッシュした。瞼が落ちそうだ。一人だけ先に帰る旨を伝えて了承を得てから、どさりとベッドに倒れ込む。横になった瞬間から急にだるくなってきて、僕は本格的に眠る体制に入ってしまっていた。心地良いまどろみが徐々に体を包み始める。眠りに入る直前の、足先がぼうっと燃えるような、あの熱い浮遊感。
「しばらく家に帰ってなかったから少し仮眠したいって言う話、あれ本当なんだ。一緒に寝よ。いや、帰ってもいいけどね。フロントには話がしてあるから……。お金はそのまま持ってて……また会ったら……、続き……」
後半は何を言っているのか自分でも分からなかった。呂律が回らず、頭の芯からぐらぐらと白霞む。
「ちょ、ちょっと、あの……っ!」
眠りに落ちる寸前、戸惑いがちに手を伸ばす少年の姿があいまいな影となって瞼に焼き付いた気がしたが、そこからはもう完全に眠ってしまっていてなにも覚えていない。テーブルの上に財布を投げ出したままでいたが、コクヨーくんがそれをどうにかするとは思えなかった。『どうにかされてもいいや』くらいの軽い気持ちで、僕は貪るように眠る。一夜限りの関係なのだと疑っていなかったのに、僕は自ら“次”の関係を夢想していたことにすら気が付いていなかった。
確かなのは、わけのわからない夢幻や幻想を語るまっすぐな彼こそが無性に語り合いたく、そしてどうしようもなく触れあいたい、からだとこころなのだということ。
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