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鎹 3

   *   *   *  車でコクヨーくんを送り届け、自宅の車庫に駐車してから張りつめていた息を大きく吐き出す。瞳を閉じてシートに大きく凭れた。 「恋人はいますか……、か」  祈るように、懇願するように吐き出されたあの質問――――。  間違いなく、彼の中でじわりとした恋情が芽生えている。恋慕の自覚があるにせよないにせよ、思春期である彼に眩むようなはじめての快楽を与えたのは、この僕だ。だからこそきっと、コクヨーくんは無意識に僕を求めてしまうのだろう。慎重に彼のこころを見極めねば、思春期の彼に大きな傷を作ってしまう。彼のこころの中にある僕への懸想は、快楽の爪痕が先行しているのか、それともひたすらに純粋な恋情が先行しているのか――――。 (はじめに快楽を与えた僕が悩める立場じゃないよな……)  夕食を共に食べたあとの、ムーンリバーに彩られた夜のキスを思い出す。助手席で彼は僕に抑え込まれ、悶え、必死に縋り付いてきた。怖がらせたくせに、彼を思いやるくせに、何度だって執拗に触れたいと思う。もっと深くまでつながりたいとも思う。  対極的な罪悪感と渇望が拮抗するというあまりにも一貫しない心模様に、僕は頭を掻いた。僕たちの間に横たわる大河が浅くなればいいと願ったし、そうなるよう期待していたはずなのだが、実際に距離が近くなり彼からとろけるような瞳を向けられると途端に罪悪感が芽生えてしまう。好みの子が一人ふらふらしていたから、一度だけ身体を交わすつもりだったのだ。それが今や、コクヨーくんを思い浮かべるたびに日に日に情が移ってしまい、こんな不埒で穢れた僕との関係が深まりつつあることに一考するのだからお笑い草だ。  快楽だけの情交ばかり重ねてきた僕でさえこんなにも混乱しているのだから、初心な彼はもっといろいろなものが渦巻いているに違いない。それもまた、僕の罪悪感をより一層深める助けとなっている。熱病のように潤む瞳が僕をのぞき込むたび、清廉潔白な少年のこころが汚れてしまうような気さえする。臆するくせに、すべてなかったことにすることもできない。止められない。 「遊園地か……」  まるで恋人同士が交わすデートの約束みたいだ。すぐそこまで迫っている未来を、瞳を伏せて噛み締めた。

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