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エンヴィー・ラッシュ 5

 気が遠くなるほどに一寸刻みの侵攻の末、僕の陰茎は根元まで彼の体内に収まった。快楽より何より、襲いくる凄まじい安堵感に二人して大きな息を吐き、顔を見合わせてはにかんだ。やり遂げたという妙な達成感に嬉しくなり、ひくついている腹を撫でた。 「痛くない?」 「い、たくない、……っけど、あつい」  広げられた後孔がずくずくと脈打っているのを感じる。僅かな間隙もなくぴったりと密着する肉と肉に、今すぐにでも突き上げたい衝動を堪えるのは大変だった。腰を押し付けたままじっと動かずに見下ろしているものの、僕はかなり無理をしている。泣かせたい、もっとあられもない声を引き出したい。……けれど。  きっとコクヨーくんの言う、『痛くない』というのはウソで、今すぐにでも泣き喚いて僕を蹴飛ばしたいくらの苦悶を感じているのだと思う。じっと涙を堪えて、気付かれないように浅い呼吸を繰り返すコクヨーくんはどこまでも健気だ。彼らしいと言えばこれ以上ないほど彼らしいのだけれど、少しだけ口惜しくもある。もっと、苦しみも何もかも、曝け出してくれたら良いのに。 「すき、すきだよ……っ」  首筋の淡い匂いを嗅いで、薄い皮膚を軽く歯で噛んで何度もキスをする。首も、耳も、頬も、額にもキスをして、どうしようもなく胸を熱くさせる愛おしさを言葉の代わりに唇で烙印する。 「んっ、んう、く、はっ……ぁ!」  舌足らずな喘ぎをこぼす舌を吸い、口の端を伝う唾液を舌先で追いかける。顎まで辿ってからまた震える唇を舐め、何度も何度も舌を絡めあった。熱っぽい唾液を交換して、飲み下して見つめ合っては恍惚の息を腫れ上がった熱情と一緒に吐き出す。呼吸のタイミングを見計らって陰茎をぐず、と動かすと緊張の解れた後孔は抵抗なく僕の動きを包んでくれる。 「ぅ~~~っ、はぁう、……っすき、あきつ、さ……っ! すき、っき、すき……っ」  すき、と連なる言葉がどんどん掠れて、どんどん滲んで、肉も声もぐずぐずに融けてしまう。今まで押し込めていた愛をここぞとばかりに放出している。もう何もわからない。ただ目の前の僕に縋って、好きだ好きだと泣いている。 「……ッ、すこし、耐えて」 「ィううぅ――――……! へぁっ、ぁ、あ、ぅあっ――……!」  もう僕も限界が近かった。腰を引き寄せて熟れた内壁をヘソに向けて突き上げた。亀頭が弱い箇所を無遠慮に擦るとコクヨーくんの足が大きく跳ねた。追い立てるように何度も何度も執拗に突いて交接を乱暴にしていく。あつい。熱い……。 「ッひ、ぅうああッ、ま、待っ――――ッ!」  対処しきれない熱に翻弄されてシーツを掻くコクヨーくんのペニスを扱く。陰茎はすぐに熱く膨らみ、先走りが糸を引いて下腹に垂れた。 「~~ッ、ふッ、ァ……!」  緩急を付けて雁首辺りを入念に扱くと、彼はすぐに果てた。腹の上に精液が幾重にも散り、強張っていた肢が弛緩する。射精に伴い激しく収縮する後孔からペニスをゆっくり引き抜き、初めて会ったホテルでした時のように、コクヨーくんの手を使って自身を扱いて腹の上に射精した。臍で混じり合う二人分の精液は身動ぎの動作で流れ、脇腹を通ってシーツに浸潤する。 「はっ、は、……っ」  とろんとした瞳は焦点が合っていない。手触りの良い髪を撫でると、一瞬僕を見て、安心したように瞼を下ろした。規則的な寝息が聞こえてくる。 「おやすみ――――、」  目まぐるしく駆け巡った愉悦の余韻を静かに噛みしめながら、僕は未だに味わったことのないしあわせのない余韻を、ゆるい微睡みの中で愛でていた。

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