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 その態度に腹を立てたのか、兎田主任が俺を見下ろす。 「なぁ、ガキ。俺様が主任でウシがそうじゃない理由、テメェは知ってるか?」  まるでなんでもない雑談を始めるようなノリで、兎田主任が話した。  ──瞬間。 「──兎田君ッ!」  それを聞いた先輩が突然、声を張り上げる。さっきまで貼り付けていただけの笑みが消え、顔色が若干悪くなっているようだ。  ……確かに、妙だとは思った。  営業部の時期部長とまで噂されている先輩が役職無しで、同期の兎田主任が役職持ち。  他人に関心のない俺すらも先輩の話題は知っていたのに、昨日まで名前も知らなかった人の方が上の立場。……その理由を、兎田主任は知っているのだ。  踏み込んではいけない話題なのは、分かっている。……ならば、知ったかぶりをするべきか?  兎田主任に『知っています』と言えば、それで諦めてくれるかもしれない。  しかし俺は思わず、答えに詰まってしまった。そのせいで兎田主任は、満足そうに笑ってしまう。 「ハハッ! 嘘を吐くのがヘタだな、非常識野郎! それじゃあ【知らない】って顔だぞ? まぁ、上層部だけのトップシークレットだもんなぁ? 知ってるワケもねぇか。……なぁ、ウシ?」 「兎田君ってばッ!」  ──『トップシークレット』?  そこで不意に、俺は不必要なことを思い出してしまった。  ──先輩が異動してきた本当の理由を知らない、ということを。  幸三が言うように、部長になる前に他の部署を経験させるという思惑なのかもしれない。だが、もしかすると兎田主任は、本当の理由を知っているのか? 「冗談、やめてよ……ッ」  だけど、先輩は俺に知られたくないのだろう。  兎田主任が知っていて、先輩の【特別】である俺は、知らない。その事実が『悔しい』なんて、さすがに思ってはいないさ。  ──俺は先輩を、傷付けたくない。先輩が知られたくないなら、無理に聞き出すつもりはないのだ。  けれど、苛立っている兎田主任は口を閉ざさない。 「俺様が主任で、ウシがそうじゃないのはな? 今回の異動が決まった理由にあるんだよ」 「兎田君ッ!」  話すのをやめてほしい先輩の気持ちは、表情と声を聞いたら分かる。だけど冷静じゃないせいで、先輩は兎田主任に【名前を呼ぶ】という地雷行為をした。そのせいで、兎田主任の口は止まらない。  すぐに俺は首を横に振り、兎田主任の言葉を打ち消そうとした。それでも、兎田主任は止まらないのだ。 「やめてください、兎田主任ッ!」 「なんだよ、遠慮するなって。俺様相手に資料の書き直しを求めてきた、勤勉なテメェには教えてやる。いいか、よぉ~く聞けよ」  そう言って兎田主任が俺の頭を片手で掴むと、不敵な笑みを浮かべた。  そのまま兎田主任は先輩の【異動の理由】を。  先輩の意思を、まるで無視して……。 「──ウシが左遷させられたのは、営業先の女社長に惚れられたからだよ。左遷にまで至った経緯は、その女のせい。その女はウシに振り向いてほしい一心から、ウシが見ているその場で自殺未遂をしたんだ」  雄弁に、語った。

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