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 都合のいい幻想を、即座に作り出してしまったのか。思わずそう、自分に特殊能力があるのかと錯覚してしまった。 「……は、っ?」  なにが起こっているのか、分からない。俺は間の抜けた声を出して、目を丸くすることしかできなかった。  そんな俺を、先輩の腕が優しく抱き締める。 「君がどんな気持ちで、僕に接してくれていたのか。僕は、僕の不甲斐無さが悔しくて、君を何度も傷付けていたことを知らなくて。……君の気持ちを知った時、どうしていいのか分からなかった」  どうして俺は、先輩に抱き締められているのか。その理由が、まだ理解できない。 「君にキスをされて、君の気持ちを知って。あんなに怖かった【好き】という二文字が、他の誰でもない君から出てきたことに。……そして、それを喜んでいる自分自身に。僕は戸惑って、不安になって、困ってしまった」  じゃあ、あの時。先輩が右手首を掴んでいたのは?  ──【俺の気持ち】じゃなくて、先輩は【自分自身】に困っていたってことなのか? 「君に『セックスしよう』って言っていたのは、最初は勿論、君からの素っ気無い返事で安心したかったからだよ。……だけど」 「えっ──うわっ!」  先輩が俺の背に回していた手を突然、俺の肩に添える。  するとそのまま、俺が寝ていた敷布団に俺を押し倒すかのように、力を入れてきた。 「──最近のは、本気だったよ。僕は君に抱かれるより、君を抱き潰したい。君が乱れる姿を、僕は見たくて堪らない」  ……なん、だ? なんだこの、とんでも展開は。  なに、なっ、なに、なに……っ?  真っ直ぐ見つめられて、押し倒されて、好きって言われて。そして、最後には先輩の常套句が出てきたということは?  ──これは、そういう流れに持っていかれている気がする。 「まっ、待ってください、先輩っ! 仕返しのつもりなら、これは──」 「待てないよ。君が僕を好きじゃなくなる前に、僕は君を、僕のものにしたい」 「待っ──ひぁ、っ!」  そこでようやく気付いたが、どうやら俺の首からネクタイが外されていたらしい。おそらく俺を寝かせる時に、寝苦しくないようにと解いてくれたのだろう。  ネクタイの外されたワイシャツから覗く俺の首筋に、先輩が唇を当てた。そして、いつぞやに俺が先輩へやったように。……先輩は痕を残すために、俺の首筋を強く吸った。 「ん……っ!」 「子日君、僕は君が好きだ。好きで好きで、好きで堪らない。ヤッパリ【好き】って怖いね。僕が僕じゃなくなりそうだ。だけど君が──」 「分かったっ! 分かった、分かりましたからっ! 一旦落ち着いてくださいっ!」  キザなセリフを真剣に言ってくるものだから、感動とかよりも先に羞恥心が込み上げてくる。  ……先輩が、俺を好きだって? これはもしかして、夢じゃないか? 「実は俺、気を失ってそのまま……自分に都合のいい夢を見ている、とかですか……っ?」 「もっと痛くしたら、夢じゃないって信じてくれる?」 「うあ、っ!」  先輩はさっきとは反対の首筋に、顔を埋めた。そのまま、今後はわざと歯を立てて、噛み付いてきた。  それからいきなり吸われると、瞬時に色々な痛みを感じてしまう。  強引なやり方だが、俺は『ヤッパリこれは現実なのか』と、思い知らされてしまった。

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