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最終章【先ずは好きだと言ってくれ】 1
というわけで、晴れて俺と先輩は恋人同士になりましたとさ。
拍手喝采。鳴り響く脳内ファンファーレ。
おめでとう、俺。そして俺よ、おめでとう。
アーメン、ハレルヤ、ピーナッツバターだ。
そんな感じで浮かれても仕方ないであろう、翌朝のこと。
「──ネズミ野郎。なんでこの俺様が【珍しく】不機嫌なのか、分かってんだろうなぁ?」
──俺は企画課のとある仮眠室の前にたった一人、正座させられていた。
膝の上で拳を握り、俺は俯く。
「──正直に申し上げますと、検討しかついておりません」
目の前には、二メートルの巨漢。他の誰でもない兎田主任が、それはとても不機嫌そうに立っている。
……その理由は、単純明快。
──俺と先輩が【どこ】で【ナニ】を【ヤッた】のか。……それを考えれば、すぐに分かることだ。
「へぇ? さすがだな、ネズミ野郎。なら、俺様がわざわざ理由を言わなくても分かるってことか」
「えぇ、まぁ、はい」
「なら、重ねて質問させてもらおうか」
だけど、まさか……っ!
「──なんで俺様の仮眠室が汗臭いのか、説明できるよなぁ?」
──先輩が【兎田主任の仮眠室】でセックスしようとしたなんて、誰が思うものか!
昨日俺が運ばれたのは、まさかの【兎田主任専用の仮眠室】だったのだ。
俺が目を覚ました時には既に終業時間を過ぎていて、どうやら夜行性らしい兎田主任は別室で作業を開始。俺を心配してくれていた先輩は、兎田主任からノートパソコンを借りつつ、兎田主任の仮眠室で事務作業をしていた。
そこで俺が目を覚まし、後はイチャコラサッサ。……つまり、俺と先輩がセックスしたのは兎田主任の仮眠室である。
そして、兎田主任が怒っている理由はつまり──うん、察してくれ。
不機嫌のベクトルから外れそうなくらい機嫌が悪い兎田主任に向かい、俺は苦しい言い訳を紡ぐしかできない。
「汗臭い、ですか。いやぁ、それは、あの……寝汗、ですかね? 俺、体調がかなり悪かったみたいで。だから、その、熱が出た人と同じような症状が出たのかなぁ~、とか──」
「それは面白くねぇジョークだな? そもそも【一人分の汗の臭い】じゃねぇんだよ。俺様の嗅覚嘗めてんのか? あァ?」
「えぇっと、そうですね。……あっ、俺を運んでくれた時に先輩が汗をかいたのでは──」
「そんな微量の汗なら分かるわけねぇだろ、蹴り飛ばすぞ」
さっき『俺様の嗅覚嘗めてんのか』って言ったくせに! その後に出てくる言葉が『微量の汗なら臭いが分からない』ってどういうことですか!
……そもそもさっき『珍しく』って言っておりましたけど、兎田主任はいつもおおよそ不機嫌ですよね? ……とは、勿論言えず。
もう確信を持っているのなら、辱めるようなことはしないでくださいませんか? ……とも、勿論言えないが。
「テメェらがどこで乳繰り合おうと、俺様には関係ねぇ。家だろうが野外だろうが電車の中だろう会議室だろうが、好きにしろ。……だけどな、ネズミ野郎」
兎田主任は親指を立てて、自分の後ろ。
つまり、兎田主任の仮眠室を指す。
「──最低限の場所を、選べ」
「──大変申し訳ございません」
──こっ、怖い……っ!
と言うか、なんで今回に限って先輩は同席してくれなかったんだ!
いや、電話で呼び出しを受けた際『ウシを連れてきたら社会的に殺す。……ウシをな』と脅されたので、こうなっているのだが。
こんなことなら神を賛辞するような言葉を遣わず、ただ『ピーナッツバター』とだけ言っておけば良かった。……全面的に、悪いのは俺だけれど。
あと、なんで兎田主任は俺の電話番号を知っていたのだろう。……ヘンタイ的天才の考えることは、凡人の俺には分からないか。
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