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オマケ 1 : 3

 またしても俺は、体を前後に揺さ振られていた。 「浮気と不倫はナシって言ったのに! どうしてなの子日君っ!」 「今回の設定が気になりますか、先輩? 今のは【彼の名前は牛丸章二。しがないサラリーマンだ。彼は女好きを拗らせ、数多の女性と友好的な関係を築いていた。しかし、両親は彼のそんな性格に困り果てていた。だが、牛丸はたった一人だけの女性を愛することはできない。ある時、牛丸は気付く。『そうだ。男と結婚してしまおう』と。そうして牛丸は、彼にとって実に都合がいい後輩子日文一郎と偽りの新婚生活を始める。牛丸は今日もキャバクラで女と遊びつつ、自身の女好きを隠すため、子日を隠れ蓑にするのであった】……という設定です」 「同姓同名だけどその男クズだよ! 利用されている子日君が可哀想だよぉおっ!」  なんということだろう。先輩がさめざめと泣き出してしまったではないか。俺はなかなか演技と脚本の才能があるのかもしれない。  なぜか役である【子日君】に深く感情移入をしてしまった先輩は、演者である俺のことを強く抱き締め始めてしまった。……うぅむ、ちょっと苦しいな。  しかし、またしても先輩が希望する新婚ごっこを提供できなかったようだ。それは、申し訳ない。 「すみません、先輩。どうやら俺、先輩の希望する新妻には不向きなようです」 「僕はそれでも子日君を娶るつもりしかないよ?」 「ワァ、ウレシイ」 「僕はその反応が悲しいよ!」  すると先輩が突然、ポンと手を叩いた。 「それじゃあ、今度は子日君が旦那さん役をやってみてよ! 僕が君を出迎えるから、今度こそ幸せな家庭を築こうねっ!」 「まるでループものの作品みたいなセリフですね。それに、それはなんだか本末転倒な気が──」 「はいっ! 始めようっ! あっ、僕のことは『アキちゃん』って呼んでもいいよっ? むしろ、そう呼ばれてみたいかなっ」 「あっ、ちょっと……っ!」  グイグイと背中を押され、俺は一度事務所から追い出される。……クソ。こんなことなら常に鞄を持っておけば良かった。そうしたら、今すぐ先輩を残して帰れたというのに。  俺はため息をこぼした後、仕方なく先輩の茶番劇に付き合うこととした。  事務所の扉を開けて、俺は満面の笑みで立っている先輩を見上げる。 「ただいま戻りました、先輩。…………アキ、ちゃん……」  俺が『先輩』と口にすると、無言で首を左右に振られてしまった。なんだその『駄目な子ね』と言いたげな目は、腹立たしい。  俺が先輩の希望する呼び名を口にした途端、先輩はパッと笑みを浮かべた。 「おかえり、文一郎君っ! 寂しかったよ~っ!」 「ぐえっ」  先輩のターン。先輩は【突進】を選択。そのまま俺に直撃し、続けて【抱擁】を繰り広げる。とんでもない連続攻撃だ。  ヒットポイントを確実に奪われつつ、俺はとりあえず演技を続行。  俺のターン。俺は【微笑み】を選択。 「まったく、アキちゃんは甘えたさんですね。そんなに寂しかったんですか?」 「え……っ? あっ、う、うんっ。寂しかった、かな……っ」 「そうですか。それは、申し訳ないことをしてしまいましたね」  ポポッと顔を赤らめている先輩を見上げつつ、俺は【微笑み】を続行。 「うっ、可愛い……っ」  先輩がなにやら呻いているが、そんなことはどうだっていい。  なぜなら、今の俺は【旦那さん】だ。  ……そう。 「……え、っ?」  ──俺は【旦那さん】なのだ。  俺はすぐさま先輩のネクタイを掴み、離れかけていた距離をグッと縮める。  先輩が目を丸くしているが、そんなこともどうだっていい。  なぜなら、今の俺の設定は……。 「──ホラ、俺の顔が見られて嬉しいのでしょう? なら、出すもの出してくださいよ。俺はこれからパチンコで豪遊して、明日は競馬で一山当てなきゃいけないんですから、そのための資金が必要なんですよ。分かりますよね、アキちゃん? なんのために高給取りのあなたと結婚したと思っているんですか? ……だからホラ、ねっ?」 「──こんな旦那さんは嫌だぁあっ!」  ──【金に目がない亭主関白な旦那さん】なのだから。

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